株式会社エクセディ インホイールモーターの勉強会

武田 隆

 7月20日、RJCの研究活動の一環として、インホイールモーターの勉強会を、オンラインで開催した。講師としてプレゼンテーションしていただいたのは、株式会社エクセディ。同社は、自動車用パーツを得意とするメーカーで、駆動系関連をメインとして、従来からクラッチ、AT用のトルコンなどを開発・製品化してきたが、近年では電動化用パーツにも力を入れている。またドローンやスマートロボット、発電機用の低振動エンジンなど、新しい分野にも積極的に展開を始めているという。近年はシリコンバレーにもオフィスを設立するなど、スタートアップ企業とも連携し、技術革新に対して積極的である。

 勉強会をお願いするきっかけとなったのは、今年5月の横浜での「ひととくるまのテクノロジー展」において、インホイールモーターの実物展示があったこと。既に実用化しているとの話に感銘をうけ、勉強会について相談したところ、快諾いただいた。テスト車両での走行なども見学可能とのことだったが、同社は大阪が本拠地なので、今回はオンラインでプレゼンしていただくことになった。

 インホイールモーター(以下IWM)は、英国Protean Electric社が開発しているもので、エクセディは生産・販売を前提に、日本市場を調査することで合意している。Protean Electric社はIWMスペシャリストのスタートアップのようなメーカーで、14年間IWMの研究・開発を続けて、今年から少量生産でIWMの実用化が始まった。工場は中国にあり、従業員は約150人で、うち約100人がエンジニアだという。

 最初にまず、開発本部・システム解析技術部・主任研究員の山梶喜弘氏から、エクセディの概要について紹介いただいた。その後、新事業推進統括室・テクニカルディレクターの梶谷郊二氏から、IWMについて解説いただいた。

●Protean のIWMについての概要


◎(主な構造やスペック)
 ProteanのIWMの構造上の特徴としては、ダイレクトドライブ式で、ギアもシャフトもないので、高効率で静かである。モーター、ブレーキはもちろん、インバーターまでインホイールに収めている。冷却は水冷式。最大回転は1600rpmで、車速は180km/h程度になる。




◎(スペースユーティリティの高さ)
 IWMの最大の特徴は、スペースユーリティだという。IWMでは、駆動系装置がすべてインホイールに収まっているので、車体のスペース効率が飛躍的に高まる。タイヤを四隅に置いてホイールベースを極力長くとり、客室スペースや荷物スペースを広くできる。VWのID.3と同じ程度の全長(約4.3m)でも、IWM車両だとホイールベースを格段に長くとれるので、3列シートが可能。
 WBが長くフロアが広いことから、床に敷く電池の搭載方法に余裕があり、フロアを低くできるので車高を低くでき、その結果、前面投影面積が小さくなり、空気抵抗を低減できる。
 そのほか、ステアリングの切れ角を大きくでき、さらにトルクベクタリングもできるので、最小回転半径が小さくなる。長いホイールベースでも回転半径を小さくとどめることができる。

◎(走行性能の向上)
 走行面での最大の特徴は、トルクベクタリング。左右や前後のモーターを独立に制御することで、トルクベクタリングを行えるので、アジリティが高くなる。モーターのトルクの立ち上がりが早く、ヨーモーメントの発生が早く、大きい。大きいクルマであっても、小さなクルマを走らせるような運転感覚になるという。
 アクセル操作に対するモーターの応答も早い。反応速度は5msで、車軸間にモーターを置く通常のEVと比べて1/10の程度。
 通常のEVはモーターからタイヤまでの間に、ギアやシャフトを介するが、IWMだと、モーター→即タイヤ駆動なので、伝達が早い。
 減速については、ProteanのIWMは、油圧摩擦ブレーキと協調制御するが、高い応答性を生かして、トラクションの限界いっぱいになるよう制御するので、通常の油圧摩擦ブレーキのABSよりも減速Gが大きくなり、停止距離を短くできる。
 これらのトルクベクタリングや応答性の速さは、追加のハードウェアなし、つまりよけいなコストなしで実現できる。
 テスト車両によるデモ走行の映像では、低μ路でトルクベクタリングによるその場回転の走行や、コーナリングでの安定した走行や危機回避能力などが、紹介され、一般的なEVよりも走行性能が優れていることが実感できた。


油圧摩擦ブレーキとIWMが協調制御し、トラクション限界付近の高い減速Gが得られる。



◎(バネ下重量について)
 IWMというと、誰もがまず想像するのが、バネ下重量の増加による、乗り心地や走行性能の低下であるが、これについても心配はあまりないらしい。外部のエンジニアリング会社の解析評価では、バネ上とバネ下の重量比が6以上であれば、乗り心地に違和感がないのだという。たとえばフォードは5だが、テスラは6や7。参考までにロータス・エリーゼは、車重が軽いので重量比が6であり、つまり6以上であればエリーゼ並みのハンドリングが可能ということになる。
 EVはバッテリーを搭載しているため車重が重いので、重量比6を満たすのは難しくないという。メルセデスEクラスの旧型にIWMを組み込んだテスト車両では、乗り心地に関するデータはよく、乗っていてもバネ下の重さは気にならないという。

◎(さまざまなテストに合格)
 量産前に、一般の自動車メーカーのテストと同様な、多項目の厳しいテストをして合格し、量産化へ進んでいる。塩水にさらすとか、縁石に干渉したり衝撃を受けたりしたときの影響とか、冠水路の走行で必要なシールの耐久性や過酷な温度環境などのテスト項目もある。テストはさまざまな法規などに対応するものとなっている。

◎(どんな車両開発が可能になるか)
 実際にIWMを採用することで、どんな車両開発ができるのか。
 駆動方式の部分では、全輪IWMの2WD車や4WD車ができるのは当然として、既存の2WDのEVに、IWMを残り2輪に追加して4WDとすることもできる。
 車種としては、IWMを使ってスペース効率を高めると、全長4800mmでも室内の広いラグジュアリーカーが可能で、そのうえ360kWの出力(90kWを4輪)と、1クラス下の取り回しの良さを備える。また全長5000mmで3列すべてフルサイズシートのMPVも可能。
 興味深いのはコスト面について。IWMで生み出される付加価値も合わせると、コスト面でも有利になるという。2WD車で通常のEVと比べた場合、IWMでは、モーターが2つ必要なので、そのぶんコストは高くなるが、シャフト類などがないことのほか、バッテリーを少なくできるぶんで、コストは下がる。
 このうえに付加価値として、車室スペースの拡大や、トルクベクタリングによるアクティブセーフティなど、より優れた走行性能、安全性能も加わる。空いたスペースに、より多くのバッテリーを搭載して、航続距離を伸ばすことなども可能である。そのほかにも、空気抵抗や車重が減ることによる、電費性能の向上の可能性があり、通常のEVよりも静粛性の向上なども期待できるという。

◎(IWMの採用例)
 ProteanのIWMは、今年2023年から少量生産ながら実用化されている。欧州では、都市部のエンジン車の乗り入れを禁止している地区があるが、近年ではCO2削減のため配達のデリバリーバンの電動化の要請が高まり、補助金を出している都市もあるという。そのためデリバリーバンの電動化コンバージョンが普及しているそうだが、Proteanでも、FFの配達用デリバリーバンの後輪にIWMを組み込んでEV走行を可能にさせる、コンバートのハイブリッド車両を実用化した。
 また中国では今年の上海モーターショーで展示された新型車、東風汽車 Voyahの高級セダンに採用されている。さらにアメリカでは小型コミューターに採用されているという。



メルセデス・ベンツ Eクラス(W212)の中古車をベースにしたデモカー。エンジン、トランスミッション、プロペラシャフト、デフ、ドライブシャフト、燃料タンクなどを取り除き、空いたスペースにバッテリーを搭載。4輪にIWMが搭載されている。ホイールとタイヤは、市販の18インチのもの。


●(質疑応答)


◎(冷却に関することなど)
 冷却は、水冷で、ステーターなどを冷やす。その水は車両側から送るが、そこの開発は車両メーカーの担当になる。今ある試作車などは、1つのウォーターポンプで、4輪に水を送っている。
 IWMの奥に隠れるような配置になるディスクブレーキだが、冷却性能については問題ない。アルプス降坂テストで摩擦ブレーキのみで下り、ローター表面が高温になった状態で、インバーターや、ローターに近い磁石部分でも、問題のない温度にとどまった。
 ブレーキの整備性については今の市販車と同様であり、ジャッキアップすればIWMを外さずにパッドの交換作業はできる。
 タイヤ交換などはまったく普通にでき、既存の通常のタイヤを使用する。ホイールサイズはProteanのものではすべて18インチで開発している。




◎(アウターローターの特徴など)
 ProteanのこのIWMの大きな特徴は、ダイレクトドライブであることだという。それを実現するのがアウターローター方式。Proteanではインバーターも中に収容しているのが特徴。IWMでもインナーローターにして減速ギアを介するものもあり、ダイレクトドライブにしているメリットは大きい。
 アウターローターの問題点としては高回転にしくい、スピードを上げにくいということはある。Proteanの場合、ダイレクトドライブなので、最大でも「1600rpm以上」だから、十分高速走行まで対応できる。
 アウターローターの最大の利点は、並べる磁石が外側にあるので、半径が大きい円周上に磁石を多く並べることができ、大きな磁力により、大きなトルクを得られることだという。

◎(実用化に14年)
 IWMはメリットが大きく優れているにもかかわらず、今まで実用例がなかったが、今回の実用化は、Proteanが14年間開発を続けて進化させてきた結果であるという。実用化につながった現状のものは第5世代に相当する。第1世代の試作品を見るといかにも大がかりで、今のようにインホイールにコンパクトに納めるようになるのは時間がかかったようだという。参加者からは、1900年前後のローナー・ポルシェがIWMだったという指摘もあり、アイデアは昔からありながら、100年以上を経てようやく実用化の域に到達したことは感慨深い。

●(参加しての感想)
 IWMが、非常にメリットが大きいものであるのがわかった。近年EVに親しんで、エンジン車と比べて、静かで上質、レイアウトが自由などのほか、トルク制御が精緻にでき、走行性能が優位だということは理解していたが、IWMではそれらがさらに向上することに感銘を受けた。従来のクルマで不可能だったスペース効率のクルマがつくれるということも、意義が大きいと思った。IWMを採用したクルマが、日本で開発されるのを期待したい。

報告:武田隆
写真・図:株式会社エクセディ/武田隆

最終更新日:2015/10/01

活動報告に戻る