ボッシュが描く新しい生活空間

神谷 龍彦

 「2015年の売り上げは中国経済減速の影響もあり2700億円でした。2016年は3〜5%のアップを目指します」。ボッシュ・ジャパンの年次報告記者会見でのウド・ヴォルツ社長の言葉だ。まあ、おおむね順調ということだろう。で、その記者会見の様子。

着々と進化する自動運転。昨年10月から日本でも公道テスト


 ボッシュは自動車パーツだけでなく、自動運転車の開発でも知られる(ほかのサプライヤーにもそういう所がけっこうある)。ドイツ、アメリカに続き、日本でも昨年の10月から自動運転車の公道テストを始めた。左側通行や複雑な交差点をパスするノウハウを研究するのが目的のひとつらしい。2021年までに高速道路用自動運転システム「ハイウエイパイロット」を実現したいとも語る。
 世界的に自動運転車の開発競争は激しさを増しているが、それを支えているのは、表にはあまり出ないものの、実はこうしたサプライヤーであることが多い。今回の会場にはボッシュの最新自動運転デモカーが展示されていた。 
 ボッシュはそのシステムの中心にIoT(アイ・オウ・ティー=Internet of Things)を置く。これはここ数年注目を集めているが、考え方そのものはとくに新しくはない。「モノのインターネット」などとも訳されている。
 あらゆるモノのデータを集める→インターネットでそのデータをクラウドに蓄積する→クラウドでそのデータを分析する。このとき必要ならAI(人工知能)を使う→その結果を物理的動きに反映する。データはPC上ではなくインターネット上に保存される。
 たとえば、クルマのエアコンを考えてみよう。まず、気温や湿度、外気温などのデータがクラウドに送られる。クラウドではそのデータを分析しクルマに送る。その指令に従いエアコンが作動し最適な環境を造る。情報のやり取りはあくまでもクラウドがベースだ。

説得力あったデモカーでの実演。自動運転+アルファーを目指す


 会場ではデモカーによる操作が実演された。
 ボッシュが目指すのは自動運転だけではない。クルマの中を、効率的に仕事をしたり(ビデオ会議やデータや書類の保存など)、自宅のようにリラックスできる空間にしたりすることを目指している。
 言うまでもなく、自動運転やクルマのリラックス空間化は現時点では法的に認められてはいない(広くはジュネーブ条約による)。しかしこれは別にボッシュの問題ではなく、自動車メーカーサイドのが解決すべき問題だ。
 デモカーによる操作を見ていて少し気になったのは、運転支援モードの変更や自宅に自動駐車して充電する際などで指紋認証がやたら必要なこと。安全性の問題もあるのだろうがちょっと面倒くさいな、というのが正直な感想だ。
 また、コネクテッドホライズンというボッシュの道路認識機能は、路面だけでなくクラウドを通じて交通状況をリアルタイムで把握する。万が一逆走した場合はGPS情報をクラウドが分析して10秒以内に周囲のドライバーに知らせる。
 さらに、現在ヨーロッパで実用化されている「eCall」というシステムを2016年末に日本に導入する予定だという。これは、事故の場合に衝撃を感知して自動で救急隊に救助を要請するもので、シガーライターソケットに差し込むだけでOKだ。
 2021年までにボッシュHMI(Human Machine Interface)の達成を目論む。どうやら、もはや単なる自動運転というより、クルマを含めた新しい空間への挑戦が始まっているようだ。
報告:神谷龍彦
写真:佐久間健

6月8日、渋谷のボッシュ本社で行われた年次報告記者会見。今年はデモカーの展示があったせいか、いつもより盛り上がった。具体例があると、システムの目指すところがわかりやすい。

女性コンパニオン(?)の説明は明確で好感が持てた。これはマニュアルで公道走行中。

IoTは今後欠かせない技術になる。システムが環境や文化を変える。携帯電話のように。


最終更新日:2016/06/19