アウディQ6 e-tronにスペインで試乗

サン・セバスチャン付近のワインディングを駆け上るQ6 e-tronクワトロ。シングルフレームグリルは新しい意匠になっている。

Q6 e-tronクワトロのサイドビュー。ブリスターフェンダーと短い前後オーバーハングが特徴で、2899mmの長いホイールベースを採用した。

ドライバー眼前には11.9インチと14.5インチMMIを組み合わせた曲面のパノラマディスプレイ、助手席前にはもう一つの10.9インチのパッセンジャーディスプレイが備わり、既存のアウディモデルとは一線を画するインテリアだ。


8種類ものパターンが選択できるアクティブデジタルライトを装備する。

停車時には三角表示板のようなデザインで光らせることができる。「Car to X」を見据えた表示が考慮されている。

バスク地方の丘陵地帯にあるワイン畑を駆け抜ける、高性能版のSQ6 e-tron2台。


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 アウディの電気自動車e-tronの「Q」で始まるSUVシリーズは、これまでにQ8とQ4という完成度の高いモデルがデビュー済み。今回試乗したQ6 e-tronは、その間を埋めるとともに、同社が最も重要なセグメントと認めるプレミアムミッドサイズセグメントの最適解であるという。スペイン北部のバスク地方で開催された国際試乗会に参加して、その出来栄えを試してきた。

PPEとE3バージョン1.2を搭載

 試乗のスタート地点であるスペイン・ビルバオで行われた説明会では、開発を担当した各部門の専門家から詳細なレクチャーが行われた。そのキモとなるのは2点。1つ目はポルシェと共同開発した次世代BEV向けのPPE(プレミアム・プラットフォーム・エレクトリック)の採用。2つ目は、彼らがこれまで開発してきた中で最も重要な電子アーキテクチャとするE3(end to end electric architecture)1.2の初導入だ。
 800Vアーキテクチャで稼働するPPEについては、フロントアクスルに140kW/275Nmを発生する重量87.5kgのASM(非同期機)モーター、リアアクスルにはヘアピンコイルを使用した280kW/580Nm、重量118.5kgのPSM(永久磁石同期電動機)モーターを搭載。レーシングカーで使用するようなドライサンプ式の新冷却システムを採用し、コンパクト化と軽量化を突き詰めた。 
 フロア下の新開発リチウムイオンバッテリは重量590kg、容量100kWh(実質94.9kWh)。800Vテクノロジーによって開始から40%までは一定して270kWで充電でき、費やす時間は10%〜80%までが約21分。最初の10分間で255kmの航続距離が充電できる。また400Vの充電ステーションであれば、2つのバッテリに135kWの出力で並列充電する仕組みに自動変更される。
 E3 1.2は、車両の全ての機能を5台の高性能コンピューター(HPC:ハイパフォーマンス・コンピューティングプラットフォーム)に割り当てたというもの。例えば「HPC1」は駆動システム、サスペンション、前後方向と横方向のダイナミクス、「HPC2」はドライバーアシスタンスシステム、「HPC3」はインフォテインメント機能、「HPC4」はライト、エアコン、シート調整など、「HPC5」は車両と外部の接続に使用されるといった具合だ。当然、納車後のアップデートは「OTA」(over the air、つまりはインターネット経由)に対応しするもので、クルマのコンピューター化の最先端といえる仕組みだ。

走りや操作の精度がケタ違い

 Q6 e-tronのボディサイズは4771×1939×1648mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2899mmで、Q4より約200mm長くQ8より130mm短い。試乗したのは、システム出力285kW(387PS)で、0-100km/h加速5.9秒、最高速210km/h、航続距離625kmの「Q6 e-tronクワトロ」と、出力380kW(517PS)で同じく4.3秒、230km/hを発揮する航続距離600kmの高性能版「SQ6 e-tron」の2台。エクステリアでは意匠を変えたシングルフレームグリル、インテリアでは11.9インチと14.5インチMMIを組み合わせたパノラマディスプレイが、これまでの既存のアウディモデルから一歩進んだ、新世代のモデルであることを主張している。アクティブデジタルライトは8種類ものパターンが選択でき、停車時には三角表示板のようなデザインで光らせるという「Car to X」を見据えた表示も可能だ。
 試乗は、ビルバオとサン・セバスチャンを往復するコースが設定されていて、3割の高速道路と7割のワインディングを組み合わせた片道130kmほどのルートを1泊2日で走破するというもの。最初の高速道路区間は直線部分が少なく、タイトなコーナーとアップダウンの連続。走っているドライバーたちは運転が上手で、みなさん結構なハイペースをキープしている。流れに乗ったQ6は、当然ながら車内が静かで乗り心地と加速が抜群なので、スピードメーターを見ていないとあっという間に制限速度(130km/h)をオーバーしてしまう。「気をつけないと、レーダーカメラの請求書が日本まで届きますよ」というコーションが頭に浮かぶ。
 一方の下道は、幅6mほどの対面通行の山道ばかりで、片側のどちらかがノリ面か、1mほどの高さのガードレール(古いコンクリート製)の先が千尋の谷というタイトなルートが延々と続く、というもの。しかも対向車は車速を落とすことなく突っ込んでくる。並のミドルサイズSUVなら途中でギブアップしてしまいそうなこのルートを、Q6はミリ単位でコントロールできる正確なステアリングと、アクセル開度とブレーキ踏度に確実にシンクロするスピード調整力にモノを言わせて、左右にギリギリのスペースを保ちながらクリアしていくことができた。また翌日に試乗した高性能版でダークカラーをまとったSQ6 e-tronは、ダイナミックモードに入れてやると車高をぐっと下げた迫力のある姿勢をとることができ、まるで同社のスポーツBEVであるe-tronのGTやRS e-tronを彷彿させるさらに正確なコントロール能力を発揮してくれたのだ。
 PPEとパワフルなコンピューター制御を組み合わせたQ6の走りは、先に試乗したことがあるQ8やQ4とは別次元で、車体全体にみっちりとした神経が行き届いているという感覚がはっきりと伝わってきた。2033年までにはICE(内燃エンジン車)を廃止するとしながらも、ポートフォリオ全体を見直すことでPHEVモデルなどを重要視する「両効き」の姿勢を打ち出したアウディだが、BEV(バッテリ電気自動車)開発の勢いは全く衰えていないことが確認できた。また今回、日本から試乗会に参加したジャーナリストは4名だったが、別日に行われた中国メディア向けにはなんと22名もの参加者があったという。Q6は本拠地のイングルシュタットで初めて製造するBEVであること、中国専用モデルのQ6L e-tronを開発したことなどもあるが、やはり彼の地では電気自動車に大きな興味が注がれている証拠だろう。
報告/写真:石原 彰

最終更新:2024/07/16