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丸いヘッドライトの横に流れる涙のようなウインカー、そして少し変わった楕円形のモール内のブラック・グリル。RJCのイヤーカー(2015年度)に選ばれたこともあるハスラーのワイド版という声もあったが、実際に見るとまったく違う。何よりもハスラーとはサイズ感が異なる。面の構成も別物、ブリスターフェンダーも同様だ。はるかにボリューミーである。
クロスビーはこれだけの存在感を持ちながら全幅は1670mmしかない。しかも全長は3760mm。ほかのSUV(スズキはクロスビーをクロスオーバーワゴンと呼ぶ)の全幅と全長はおおむね1.7mと4mを当然のように超えるから、クロスビーは最小の“SUV”と言えなくもない。マツダのCX-3ですら全長4275×全幅1765mmなのだ。
最近のSUVはどれもこれも幅が広い。それなりの理由があってのことだろうけど、クロスビーのサイズは日本の街中ではやはり扱いやすい。さしあたり輸出の予定がないせいもあるかもしれない。
でも、ハスラーとの共食いの可能性はないのか? チーフエンジニアの高橋正志氏は答える。
「まったくないとは言えませんが、ハスラーには軽自動車の手軽さがあります。軽という枠の中で今後も進化させていきます。実際、ハスラーの売れ行きは堅調です。」
いずれにせよ、クロスビーの“追加“はハスラーの大成功あればこそだ。ハスラーは2014年の登場以来累計36万台も売れた。おそらくスズキの予想をも大幅に超えているに違いない。しかもオフロード走破性はクロスビーよりも高い。
「『あの雰囲気で5人乗れる小型車はできないのか?』というお客様の声は多くありました。どうせ作るならハスラーではやり切れなかった部分もフォローしようと」と高橋チーフエンジンニア。
このユーザーからの要望はスズキの小型車10万台戦略とも合致する。クロスビーの投入が決まったのは3年前だというが、スズキは昨年は10万台以上の小型車を売った。目標達成である。今年の目標はもっと高くなる。
どうせなら上級グレードを選んだ方がいい
ドライバーズシートから見える風景は悪くない。Aピラーがたっているおかげで頭上の圧迫感は皆無だし、水平基調のインパネの質感も、最上とはいえないまでもかなり高い。
話は少し飛ぶ。この“ほどほど上質感”はラゲッジアンダーボックスにも表れる。荷室床面はスペーシアより30cmほど上回る、つまり重いものを入れるときにはその分「ヨイショ!」と持ち上げなければならい。荷室床をフラットにし、バンパー位置をSUVらしく高くしたい──その結果こうなった。
ただ、その不便さを上回る工夫がある。2WDはフロアの下のアンダーボックスの中央を下げてベビーカーなどをそのまま縦に積めるようにしたのだ。しかもそれまでベビーカーにぶら下げていたビニール袋などを置くスペースも左右に確保されている。さらに、このボックスは取り外して洗える。これもハスラーではできなかったことだ。
で、内装の話に戻る。かりにもSUV的な使い方を考えるなら、ラゲッジボックスと同じくインテリアの質感はほどほどでいい。もちろん安っぽいのは問題外。だが、必要以上にクオリティをアピールしなくていいと思う。
リアシートは165mmスライドする。シートバックは5:5の分割可倒式だ。足元は広いし、たとえば上級モデルのMZには後席用に折り畳み格納式テーブルが付く。当たり前だがベーシックのMXより装備に関しては上級グレードを選んだ方がいい。
MZの方がいい理由はもっとあって、その最大のものはスズキ自慢のセーフティサポートパッケージ(約10万円)だ。これはずいぶん充実して、後方誤発進抑制機能や後退時ブレーキサポートなどが含まれる。MZはこれを標準装備する。さらに、メーカーオプションで3D全方位モニターも用意されている。
マイルドハイブリッドが最適だと思います
乗り心地は想像していたより柔らかい。良い路面ではそれこそ吸い付くように走る。凄い!と感心していたら、突然乗り心地が粗くなった。前方に交差点があることを知らせるゼブラ路面に入ったからだ。という面はあるものスペースも含めて居住性は小型として十分納得できる。
エンジンは直列3気筒1リッター直噴ターボのみ。パワー&トルクは73kW(99馬力)&150Nm。基本的にはバレーノやスイフトに使われているユニット(K10C型)だがスペック的には落ちる。その理由はバレーノではプレミアムだった使用燃料がレギュラーになったことだ。この点はユーザーにはメリットだろう。
エンジンは、3気筒であるにもかかわらず静かさとスムーズはAクラス、パワー&トルク感はB‘というところ。ただし試乗した街乗りコースでは不満はない。
また1リッターターボとマイルドハイブリッドとの組み合わせは初めてだ。でもなぜストロングハイブリッドでなくてマイルドなのか?
「マイルドハイブリッドはエンジンを駆動にも使うストングとは異なり、専用バッテリーとモーターのスペースが小さくて済みます。つまりそれだけコストも抑えられる。その点では軽自動車も含めてマイルドハイブリッドが最適だと思っています。」というのが高橋氏の説明。確かに発電機(ISG)による再発進はショックがなく快適だ。バッテリーのみの走行にこだわるよりこのほうがユーザー・オリエンテッドかもしれない。
最後に触れておけば4.7mという最小回転半径。ハスラーよりも10cm多いだけだ。これも使う身になれば歓迎点だと思う。
報告:神谷龍彦
撮影:佐久間健