ダイハツ タント (1)
DAIHATSU Tanto

待ってました! エイジレス&シームレスなやさしいクルマ

手前がターボ(カスタムRS)、奥がNA。カスタムのグリルがほどよく派手なのがいい。

ターボの走りは十分にスポーティ。エンジン音も静か。高速道路でもストレスなしだろう。

新プラットフォーム第一号にタントを選んだ。コーナーでのロールは想像以上に少ない。


カスタムRSのインパネ。安全装備等の操作ボタンがステアリングホイールに並ぶ。

後席はたっぷり。運転席のスライド量が多いので後席から運転席への移動もスムーズ。

一部例外はあるが、テールランプはカスタム系はホワイト(写真)。標準車はレッド中心。


※画像クリックで拡大表示します。

 「天井が高くて広すぎる」とハイトワゴンで注目を浴びた初代から、ミラクルオープンドア(助手席側のセンターピラーがない)で世間をあっと言わせた乗降性のいい2代目、両側スライドドアにスマートアシストを採用した3代目。そして、使いやすさと安全性能を進化させながら、若者、子育てファミリーという世代からシニア世代までエイジレスに寄り添う4代目が登場した。

後席への乗り降りが飛躍的に向上した
 ミラクルオープンドアという、タント独自の良さをどう発展させるのか楽しみだったが、室内空間の広さそのままにミラクルオープンドアを生かしたミラクルウォークスルーパッケージへと使い勝手の良さを大幅に向上させ、次世代スマートアシストで先進安全技術も進化した。
 ダイハツの新世代のクルマづくり「DNGA(Daihatsu New Global Architecture )」による新開発のプラットフォームは、軽量高剛性で、サスペンション配置を最優先させたという。そこに伝達効率を高めた新CVT「D-CVT」と燃焼効率を高めたエンジンを組み合わせ、走る・曲がる・止まるという基本性能がブラッシュアップされた。
 走らせる前に触れてみて一番に感じたのは、後席への乗り降りのしやすさ。助手席の左肩にグリップがあり、そこにつかまればスムーズに乗り込める。両親の介護を経験した身としては、福祉車両とまではいかないが、乗り降りがしやすく、後席の左右に移動しやすく、ゆったりと座れてシートベルトをしやすい介護車両未満のクルマが欲しかった。
 寝たきりにはさせたくない一心で、体調を見ながらクルマで連れ出していたのだが、低床のミニバンでも心臓が悪く介護度4だった父には足が上がりにくく乗り降りが大変そうだった。16?も床を下げたこのタントの乗降性の良さは、要介護のシニアを受け入れる寛容さがある。
 また、自立支援や介護予防の観点から、クルマの乗り降りをサポートする「ラクスマグリップ」、「ミラクルオートステップ」、「助手席ターンシート」などのアイテムがラクスマシリーズとして用意されている。
 それに広々した室内空間を、運転席ロングスライドシートで540?も後ろへ下がれるので、運転席に座ったまま、後席に置いたものやチャイルドシートなどに手が届く。助手席ロングスライドも380?、室内移動がラクで、後席の子どもやシニア世代に、飲み物を渡したり、車外へ出ることなくシートベルトの着脱を手伝えたりのケアできるのがいい。何もかも一新したタントは、福祉車両と一般車両の橋渡し役的なシームレスなやさしさのあるクルマだと思う。

もちろんスポーティさではターボ。新エンジンはともに自然な感じ
 NAエンジンの標準車とターボのカスタムのいずれも、運転席ならず後席でも見晴らしが良い。交互に乗り比べてみたが、NA(自然吸気)モデルの、狭いワインディングでのサスペンションの粘り具合ときびきびした走りに驚いた。走る・曲がる・止まるが、ごく自然で心地よい感じ。
 さすがに急勾配の坂を上る時のべた踏みのNAの物足りなさは否めないし、とくに高回転での音も気になるものの、街中での日常生活では足回りを含めたまとまりが良く好印象だった。
 カスタムは8%以上のトルクアップを図ったターボエンジンとD-CVTの組み合わせによって、出足があまりにスムーズで自然な加速だった。高速は走れなかったが、一般道では静かだと感じた。
 また、次世代スマートアシストは、シニア世代の運転をサポートする先進安全技術として、大きな役割を担うもの。前・後方に対するブレーキ制御付誤発進抑制機能や、表示とブザーで知らせる進入禁止の標識認識機能、車線逸脱抑制制御機能など、高齢者に多い事故を回避させるための機能が充実している。
 田舎暮らしの高齢者にとって、クルマに乗れなくなるのは生活に支障をきたす。行政のサポートが徹底しない限り、一概に免許返納を唱えること難しい。そんなシニア世代にこそ、先進安全技術のサポートが必要なのではないかと、タントに試乗して考えさせられた。

標準車と福祉車両の隙間を埋める取り組み
 タントのバリアフDNGAによる新開発プラットフォームの実現によって、福祉車両のフレンドシップシリーズも大きく変化したという。これまでも、スローパーや昇降式の助手席を備えた稼働効率の良い軽自動車をベースとした福祉車両を1995年よりリリースしてきたダイハツ。
 今回のタントでは、昇降性と操作性を高めた昇降式シートを備えた「タント ウェルカムシートリフト」(154万5000〜207万円)、車いす乗車がない時にワンタッチでスロープの前倒ができラゲッジが広く使えるようにした、車いすごと乗り込める「タント スローパー」(144万5000〜192万5000円)、そして新たに標準車と福祉車両の垣根をなくすために、乗り降りをサポートし、ラゲッジには簡単に車いすを収納できるパワークレーンを搭載する「ウェルカムターンシート」(139万〜165万円)がラインアップした。いずれも、介護者の操作がわかりやすく簡単になっているのが大きなポイント。またどのタイプも消費税は非課税となっている。
 なかでも「ウェルカムターンシート」は、標準車と福祉車両の垣根をなくすことに主眼を置いて、自立支援や介護予防の観点を加え、要支援・要介護者の外出の機会を増やして健康寿命を延ばすことや介護する側の負担を軽減する目的で開発されたもの。これまでの福祉車両と比べると、求めやすい価格になっている。
 ダイハツは福祉車両の生産を1999年よりインライン生産化している。登録車となっているので、購入から納車まで標準車と変わらないことも、シームレスといえる。
 自分の父もそうだったが、要介護者は介護する人に気を使って、外出したくても遠慮しがち。介護する人がラクに乗せ降ろしができ、気軽に外出できる工夫がされているクルマへのニーズは今後ますます高くなるだろう。

報告:緒方昌子
写真:佐久間健

最終更新:2019/08/11