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まずT-ROCの車体デザインについて。基本的にはおとなしく地味めな佇まいだと思った。前後フェンダーがふくらんでタフには見せているが、これはSUVとしての常道である。オーソドックスなのはVWブランドの持ち味そのものではあるが、個性的なクルマ揃いのコンパクトSUV(クロスオーバー)のなかで、ちょっとまじめすぎるかと思ってしまう。
デザインも走りもおとなしめだが、なかなかどうして。
ボディサイドのルーフラインに沿って、長々とメッキのモールがデザインされている。これはこれで、装飾を排したデザインが信条のはずのVWに、光りものパーツがこんな大胆に使われるなんて、と思ってしまうが、ただこのシルバーが、アルミ調というのか光沢を抑えているうえに、硬質の金属のような形状で、さすがドイツと感じさせるものがある。
これに加え、今回試乗車は赤と黒なので目立たないが、車体が2トーンカラーに塗られている。この2つが、VW流の自意識を崩さない程度の遊び心なのだろう。さらにこのクルマ、例によってVWらしくプレスラインが精緻で、写真では伝わりにくいと思うが、非常に高品質感がある。結果的に、それなりにしゃれていて、ドイツ工芸品的に高品質な、ちょっといいクルマ、という外観に仕上がっている。そして中身としては、ゴルフよりも実用性が高い。
いっぽう走りのほうは、また繰り返しなのだが、基本的におとなしく地味だと感じた。活発な感じではないのだ。実はそのせいで、外観もそう見えた面もあると思う。活発でないというのは、出足が鈍いというだけの話で、実はこのクルマはトルクが340Nm(34.7kgm)ある。今どきたいした数字ではないが、たとえが古くてややおおげさだが、かつてのスーパースポーツ、メルセデス300SLが1200kg台で最大トルク28kgmだったから、1470kgのT-ROCは、だいたい同じトルクウェイトレシオとなっている。踏み込んだときの加速は相当力強く、上り坂でもぐいぐい前に出る。しかも1750回転から最大トルクを発するので、300SLより速いかもしれない。ちなみにT−ROCの最高出力は110kW(150ps)である。
一転キビキビ! スポーツモード。でもそのぶん音が……。
ただノーマルモードで走っていると、踏み始めの反応が鈍いのだ。7速DSGが低回転を保つのは(とくにディーゼルでもあるし)今どき普通だが、ときにはエンストかと一瞬思うくらい反応が鈍いことがあった。そこまで極端なことはほとんどなかったが、とにかくきびきび走ろうとはしていないんだな、という印象になった。
パドルでシフトダウンもすぐにできるが、狭い道でちょっと自転車を追い越すときなどは、踏み込んで気持ちコンマ数秒すればキックダウンにならなくてもすぐに甚大なトルクが出てくるので、差し迫った追い越しでければ、それですんでしまう感じだった。
スポーツモードにすると、きびきびとは走りやすいが、こんどは音がうるさくなってくる。回転が上がるとディーゼルらしい音がかなり目立つ。スポーツモードではパワステが重くなるのだが、おそらくそれと関係して、低速やアイドリング時にハンドルにエンジンの振動が伝わってくる。速度が上がれば気にならないが、街中ではノーマルモードで走るのがよいように思った。
走行モード切り替えではアダプティブダンパーも調整されるが、ノーマルモードでも足が硬めなのはちょっと残念。これは履いているタイヤにもよるかもしれない。
今回、山道は走ることはできず、しかも交通量が多く、とてもこのドイツ出身車の本領発揮は体験できなかった。たぶんワインティングや高速では正確なハンドリングでしっかり走るだろうと思う。ただ、走って楽しいクルマという方向性ではないと、今回走った範囲では思った。その面では、このあと乗った3気筒のTクロスがだんぜんよかった。重さとエンジンの違いがそうさせているのかとも思う。
報告:武田 隆
写真:佐久間 健