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「ハイブリッド車は燃費はいいけれど価格が高い」。そんなイメージがまだ根強かった2011年、その普及拡大に拍車をかけるべく、手頃な価格のハイブリッド専用コンパクトカーとして登場したのが初代アクアだ。この狙いは的中し、発売と同時に大ヒット。2013年から15年まで年間の新車販売台数1位を獲得するという人気モデルとなった。
力強い加速を実現した新開発バッテリー
そのアクアが今年7月、10年ぶりにフルモデルチェンジした。2代目となったこの新型アクアは、コンパクトなボディサイズはそのままに、骨格を最新のTNGA(GA-B)プラットフォームに刷新、そして駆動用バッテリーに世界初となる新開発の「バイポーラ型ニッケル水素電池」を採用したことが大きな特徴。さらに機能面ではアクセルペダルのみで加減速できる「快感ペダル」をトヨタで初採用するなど、技術的にも注目度が高いモデルとなった。
実際に試乗してみると、その基本性能の向上ぶりには目を見張るものがある。特に走行性能はクラストップレベルといえるほど。ボディの剛性感の高さは、プラットフォームを共用するヤリスと同様だが、そこに瞬発力に優れる高出力の新型バッテリーが加わったことで、加速はヤリスハイブリッドよりも格段に力強く、アクセルへの反応も極めてリニア。時速40キロを超えた辺りからエンジンも加わるが、そのつながりも体感では分からないほど自然で、かつ、静粛性も見事に抑えられている。発進から高速域まで心地よく、コンパクトカーとは思えないほど上質だ。
足回りは硬めのセッティングが多い最近のコンパクトカーでは珍しく、柔らかなマイルド系。しっとりとした優しい乗り心地で、これも走りの上質さに磨きをかけている。積極的に走りを楽しませるヤリスとは明確に方向性が異なり、アクアは日常の中での快適さを重視した仕上がりとなっている。
後席はもう少し余裕が欲しい
外観デザインは丸みを持たせ、優しい顔つきになったが、基調としては先代のイメージを踏襲している。ボディサイズは全長全幅とも先代と同じで、扱いやすさが変わらないのは大きなポイントだ。
一方、室内はインパネ周りを中心に大きく変更。センターメーター方式を廃止し、インパネ中央にはディスプレイオーディオを配置。またシフトもゲート式から電気式セレクターになり、サイドブレーキもレバーから足踏み式に変更。このため運転席周りはスッキリと整理され、視認性、操作性とも向上している。このうちシフトのセレクターは誤操作が心配になるが、プリウスのものより大きく、またシフトパターンが横に大きく表示されているのでわかりやすい。さらにメーター内にも大きく表示されており、少しでも誤操作を防止しようと工夫していることが随所にうかがえる。
前席シートは厚みがあり、座り心地も良好。ステアリングにはチルト、テレスコ機構とも備えられ、最適なポジションにすることが可能だ。ただし、後席は先代よりは改善されたものの、もう少し余裕が欲しいのが正直なところ。ホイールベースが延長されたことで足元スペースは広がったが、頭上空間の余裕はあまりなく、また後席ドアは後端が跳ね上がったデザインのため、横の視界が遮られて圧迫感がある。リクライニング機構がないのもちょっと残念だ。
微妙な速度調整がしやすい「快感ペダル」
新型アクアのアピールポイントの一つである「快感ペダル」は、基本的には日産がノートやセレナに採用しているワンペダル「e-ペダル」に近いもの。新型アクアの場合、ドライブモードから「POWER+」を選択すると、この「快感ペダル」になり、加速時の力強さが増すと同時に、減速が強くなる。確かに時速50〜60キロ以上で流しているような時は微妙な速度調整がしやすい。
ただ、発進から停止まで、ほぼ「ワンペダル感覚」でこなす日産に比べると、「快感ペダル」は減速が緩やかで、あくまでペダルの踏みかえ頻度を少し減らす程度としているのが特徴。運転中アクセルを戻すと瞬時に減速が始まるが、徐々に減速スピードが鈍くなり、最後は空走するような感じになるので、大きく減速するにはブレーキを踏む必要がある。結果、ギクシャクした動きで同乗者に不快感を与えることはないのだが、混雑した街中ではブレーキに踏み変える回数があまり変わらない。減速の強さが選択できれば、もう少し活用の幅が広がるだろう。今後の熟成に期待したいところである。
報告:鞍智誉章
写真:カーアンドレジャーニュース