スズキ アルト

実力を大きく高めた新世代の「日常のアシ」

視界も広くい運転しやすい。パワーもタウンユースなら十分

前後ウインドウを立て、室内空間が広がった。全高も50mm拡大している

実用本位のインパネだが安っぽさはない


ヘッドレスト一体型の前席シート。デニム調の表皮で手触りが良い

後席は一体型。足元空間もゆとりがある

後席は簡単に倒すことができる。荷室も広く使いやすい


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 21年12月、スズキ「アルト」がフルモデルチェンジし、9代目モデルとなった。7年ぶりに一新された新型モデルは、室内空間を拡大したことや、マイルドハイブリッドの設定により、さらなる低燃費を実現したのが大きな特徴。ベーシックな実用モデルとして充実した内容を備えている。

ゆとりが増した室内空間

 まず大きく変わったのはエクステリアのデザイン。軽自動車のため全長・全幅は3395mm×1475mmで先代と同じだが、全高を50mm高くしたことに加え、フロント、リヤウインドウの角度を立てたことで、室内の広さを感じさせるデザインになった。真横から見ると、キビキビした走りを感じさせる先代モデルに比べ、新型ではゆったりとしたデザインとなり、コンセプトの違いを感じさせる。全体としては直線基調で構成したオーソドックスなスタイルだが、角に丸みを持たせたことで先代よりも優しい雰囲気となり、ちょっと懐かしい感じもさせる。同じスズキ車の中では、ラパンにも似た印象だ。

 室内の広さは、室内高を45mm、室内幅も25mm拡大。特に頭上スペースの余裕が増したことで、実際にシートに座ると数値以上にゆとりを感じる。加えてフロントドアの開口高も20mm拡大されているので、乗り降りのしやすさも向上しており、使い勝手が高められている。N-BOXやスペーシアなどスーパーハイトワゴンの広さに慣れたユーザーでも、窮屈さを感じさせないだろう。室内の広さは欲しいがスライドドアは不要、というユーザーにも適している。

 室内空間はシンプルでオーソドックスなデザイン。メーターやスイッチの配置も自然で無理がない。アルトのキャラクター上、目立つ加飾やギミックを採用する必要はなく、実用本位で十分だ。ただしエクステリアと共通する楕円形を採り入れたインパネや、デニム調のシート表皮を採用するなど細部はさりげなく凝っていて、安っぽさは感じさせない。

 シートは前席がバックレスト一体型、後席が一体可倒式。シートの座り心地はソフトだが、シートそのものは厚みは薄い。この辺りは、ゆったりと座らせて長距離ドライブも快適にこなすスーパーハイトワゴンとの大きな違いといえる。短時間・短距離で細かく乗り降りを繰り返す使い方に向いたシートだ。

マイルドハイブリッド採用で軽トップの燃費性能

 搭載するパワーユニットは新たにマイルドハイブリッドが加わり、エネチャージ仕様のガソリンとの2本立て。WLTCモード燃費はマイルドハイブリッド車が軽自動車トップとなる27.7km/Lを達成、ガソリン車も25.2km/Lと優れた燃費性能を実現。もちろんハイブリッドといっても簡易的なマイルド方式だから劇的に燃費が向上するわけではないが、装備がほぼ同じハイブリッド「S」グレード(109万7800円)とガソリンの「L」グレード(99万8800円)の価格差は9万9000円で10万円以内に納まるから、ハイブリッドが割高に感じられることもない。

 マイルドハイブリッド車のユニットは、R06D型エンジン+WA04C型モーターの組み合わせで、これはワゴンRやワゴンRスマイル、ハスラーのマイルドハイブリッド車と同じ。従ってパワーユニットの出力も49ps+モーター2.6psで同値となる。

 しかしアルトは、重量増となるスライドドアを装備したワゴンRスマイルをもスムーズに走らせるパワーユニットに、軽量なボディの組み合わせだから、走りが軽快なのはいうまでもない。ちなみに車両重量を比べて見ると、ワゴンRスマイルは150kg、ハスラーは110kg、ワゴンRは60kgもアルトよりも重い。大人1人〜2人分も重量が違うのだから、パワーに余裕があるのも当然といえるだろう。トランスミッションも全車CVTとなったので、先代アルトのAGS車のようにアクセルの踏み加減に気を使う必要がなくなったのも安心だ。

クセがなく誰でも運転しやすい

 走りの質感も満足できるところ。スペーシアやハスラーと比べて遮音材の使用量が抑えられており、アクセルを踏み込んだ際はエンジン音が少々うるさく感じられるが、ベーシック車としては許容範囲。乗り心地はマイルドで、このクラスとしては良好。コーナーではそれなりにロールが出るが、全体にクセがなく扱いやすい。ごく自然な感覚で運転することができ、普段使いに最適なセッティングだ。

 ステアリングの操舵感は、全体にカッチリさせつつ、センター付近の遊びはやや大きく持たせたタイプ。このため直進時はタイトな操作が要求されることなく、それでいて正確にトレースしたいコーナーでは無駄な動きがない実用車として理想的なセッティングだ。女性や高齢者でも運転しやすく、疲労もしにくい。硬すぎず緩すぎない、ほど良いバランスといえるだろう。

 サイズが小さいことを除けば登録車と変わらないほど豪華な内容を誇る軽自動車が増えているが、それ故に価格も装備も登録車といくらも変わらず、「日常のアシ」にはオーバースペックなモデルも多くなっている。そのような中で軽自動車の本質、経済性も含めて本当に必要な機能を絞り込み、そしてそれを磨き上げたのが、新型アルトといえるだろう。決して派手さはないが、最高の「日常のアシ」である。

レポート:鞍智誉章
Photos:カーアンドレジャーニュース

最終更新:2022/01/19