シトロエンDS5

久々の傑作フランス車

神谷 龍彦



※画像クリックで拡大表示します。

ハイドロと言われたら信じるかも
ハイドロニューマチック・サスペンションとか、DSという車名の歴史とかは、この際ひとまず置いておこう。新しいシトロエンDS5のサスペンションは、前=マクファーソンストラット、後=トーションビーム。シトロエン独自のハイドラクティブ機構ではない。つまりフツーの金属バネ。
しかし、しかしである。この出来がすこぶるイイ。試乗コースは昔よく使った箱根の長尾峠。今では路面改装されて随分走り易くなったが、それでも関東ではかなりハードなワインディングコースだ。DS5はここを想像以上にしなやかに走り抜けた。しかも、いとも簡単に。足は、あえて言えばいくらか硬めだが、細かい路面の起伏に過剰反応することはほとんどない。
ハンドリングはとっても自然。ダル過ぎず、シャープ過ぎず。切った通りに曲がってくれるというか……。今では死語に近くなったアンダーステアもあまり出ない。ちょっと運転がうまくなったような優越感。これにはフロントだけでなくリア・サスペンションの食いつきの良さと、タイヤサイズが17インチであること(太すぎない)が大きく関係していると思われる。ともかくよく動く足だ。
リアに座っていたMが「これ、すごいイイですよ。フラットだし、気分イイッス」などと分かったようなことを言う。あんまりしつこく褒めるので後席に移動してみたら、なるほど! ロールもピッチングも少ない。同乗者にも優しい。言ってみれば、硬いけどしなやか。ほどほどのスポーティさがかえってラグジュアリーな印象を醸し出す。

装備はこれで十分 お値段まずまず
エンジンは1.6リッター直噴ターボ4気筒。ミニやC4などにも使われている、BMWと共同開発のものだ。1500kgをゆうに超える車重に対してはちょっと厳しいかなと思ったけど、実際にはすこぶる快適だった。パワーは156馬力だから特に驚くに値しないが、トルクがなかなかだ。24.5kgmを1400回転から3500回転の間で発生する。だから一般的な走りで力不足を感じさせることは少ない。VWの小排気量エンジンのように燃費と出力の両立を狙ったもので、JC08モード=11.3km/ℓは今や突出するほどではないが、2リッター以上のトルク感を備えることを考えれば妥当なセンだろう。これにアイシンAW製の6速ATが組み合わせされる。このマッチングも悪くない。そう、今や世界の“アイシン”だからね。
とまあ、パフォーマンスの面はかなりグッドバランスだけど、デザインの方はやはり相当に個性的だ。なかでもフロントフェンダーから伸びる、クロムのサーベルラインはシトロエンならでは。このラインのおかげでキャビンが短く見え、実際には短いフロント部が長く見える。このラインがないとシルエットは少々凡庸になる。好き嫌いは別にして、巧みな演出と言える。
インテリアでも声高に個性を主張する。その主なアイテムは、前席左右と後席上部に設けられたシェード付きの三分割ガラスサンルーフ、航空機風にデザインされた各ブロックのスイッチ群、それと操縦桿に似たフラットボトムのステアリングだ。世のクルマは猫も杓子も運転席をコクピットと表現したがるが、実際にそういう印象を与えるデザインは決して多くはない。そのなかにあってこのDS5の運転席はかなりの“ヒコーキ・キブン”である。
装備も充実している。日本専用装備として左サイドとバックをルームミラー内に映し出すカメラも用意される。なくてもいいと言えばいいけど、安全性の確保には役に立つ。価格は400万円。シートをレザーにしたりするその分高くなるけど、輸入車の価格設定としては妥当だろう。ドイツ車の優等生ぶりに多少なりとも辟易としているなら、選択肢としては悪くない。ビルトイン式のナビ(ディーラーオプション)が20万円ほどで付くのもうれしい。フランス車らしいソフトさと優しさは間違いなく備えている。ただ、1870mmの全幅は街中では持て余すかも、ね。

(写真:佐久間 健)         

<神谷 龍彦> 最終更新:2012/08/06