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それにしても、最近のメルセデスやBMWの車種の増え方は凄い。たとえばメルセデス。2015年は1月のBクラスを手始めとして、フルチェンジとマイナーチェンジ合わせて17から18車種が新しくなった。2015年の1〜11月の日本での販売台数は58668台(前年比+9.6%)、おそらくVWを抜いて輸入車のトップに躍り出るだろう。とは言え、昔に比べると車種が圧倒的に増えているから、各車ごとの利益率はさがっている。セダンはSクラス、Eクラス、それに後から追加されたCクラスで話が完結した頃とは雲泥の差だ。で、そのきっかけとなったのが1997年にデビューしたAクラスである。
初代Aクラスは面白いクルマだった。サイズもスタイルだけでなく、すべてが良くも悪しくもメルセデス文法から外れていた。メルセデスとしては最初のFF車だったし、シートは運転席を除いてすべて取り外しができた。燃料電池等を搭載する電気自動車として開発されたから、床は二重になっていた(サンドイッチ構造と呼ぶ)。前面衝突時にはこのスペースにエンジンやミッションが落ち込んで衝撃を弱める仕組み。ドイツで行われたプレゼンテーションで「さすがベンツ!」と無邪気に感心した。メルセデスらしいちょっとお高くとまったイメージは消えたが、同時にクオリティも“メルセデスらしい”とは言えなくなった。まあ、そういう時代でもあった。
2004年に登場した2代目は基本的にはキープコンセプトだったが、居住性や乗り心地が大きく改善された。シートの取り外しが廃止されるなど個性は薄れてフツーのクルマに近くなったが、一方で質感を取り戻した。運転もしやすかった。2005年にはAクラスをベースとしたBクラスがデビューする。AクラスとBクラスの違いは、BMWの2シリーズアクティブツアラーとグランツアラーの違いに似ている。あえて言えば、Aクラスはスポーティ、Bクラスはファミリー志向だ。
現行Aクラスの日本登場は2013年。ボディ全長を400mm以上伸ばし、床のサンドイッチ構造を放棄する。全高は160mmも下がったのに、室内空間は高さ前後長ともに伸びて広くなった。それでも後席はやや狭い。EVはあきらめたのかと思ったら「フロア後方に手を加えればEVにも対応できる」とメルセデスは説明する。Bクラスと同じようなサイドの大胆なキャラクターラインも新鮮で、エクステリアは精悍さを増した。
この3代目が11月にマイナーチェンジを受けた。そのA180 Sports(1.6ℓ直列4気筒ターボ=122ps)が今回の試乗車だ。サスペンションはスポーツ仕様だが、一般道で硬く感じることはほとんどない。数値上はパワーに物足りなさを抱くかもしれないが、実際にはそんなことはない。少なくとも平坦路では──。山道の急な登りになれば、A250シュポルト4MATICの2ℓターボ(218ps)やAMG A45 4MATIC(381ps)が欲しくなるかもしれないが。
ただ、このA180 Sportsでスポーティドライブは十分楽しめる。スポーティさには2種類ある。ひとつは豪快にパワーでねじ伏せるもの、もうひとつは軽快にスイスイと走り抜けるものだ。A180は言うまでもなく後者。まさにアメンボのように路面を進む。FF車らしさは姿を見せない。
もっともこれはマイナーチェンジ前と変わったわけではない。ただ、4種類のモードに応じてエンジン、トランスミッション、ステアリングを自動制御するダイナミックセレクトが全車に標準装備となったため、ドライビングのスムーズ感は高くなった。他の大半のメルセデス車のような重厚感は薄いが、キビキビ感は高い。しかも安心感がある。デュアルクラッチ式の7速AT(7G-DCT)は繋がりもスムーズだし、ダイレクト感も強い。いいクルマだと思う。387万円という価格は必ずしも安くはないが……。
ずいぶん乗りやすくなったスマート、らしさを失わないC220d。
さて、今回の試乗会ではこのほかに何台かの2015年メルセデスに乗ることができた。ぼくが選んだのは、10月に発表されたスマートFORFOUR(FORTWOは年何回か発売され限定車になった)と9月に発表されたCクラス220dだ。スマート(1ℓ直列3気筒=71ps)を選んだのは、都内の試乗会ではメルセデスの言うほどにはトランスミッションのギクシャクが改良されたとは思えなかったからだ。C220dは単純な興味から。
「このデュアルクラッチミッション(6速DTC)、けっこうギクシャクするよね」というぼくの問いかけに、メルセデスの担当者は控えめに言った。「でも、あれから随分アタリも出ましたから」。
内心、そんなことでは変わりはしないだろう思いつつ、ステアリングを握る。そして最初に感じたこと。それはミッションのギクシャクではなくてエンジン音が静かになったことだ。これには従来のFR(フロントエンジン・リアドライブ)からRR(リアエンジン・リアドライブ)に変更されたことも大きい。まずはマル。
で、肝心のミッション。デュアルクラッチ化の効用かどうかはわからないが、一般走行では予想に反して弱みは見せなかった。こういうクルマを手なずけるのには多少のテクニックがいるものだが、これなら普通に運転してもまず問題ない。フムフム。こちらも一応マルか。このエンジンは近々発表されるルノー・トゥインゴにも載せられるから、そちらも期待大だ。
C220d(ステーションワゴン)は予想通りの仕上がりだった。低中速トルクの太い2.2ℓ直4ツインターボディーゼル(170ps)と、ワイドなギア比を実現した9速ATの組み合わせは絶妙な効果を生む。要するに“おいしいトコ取り”だからパワーにも燃費にも、スムーズさにもプラスになる。エンジン自体はE220dと基本的には同じだが、最高出力はCクラスの方がわずかに少ない。トランスミッションはEクラスは現時点では7速のままだ。
アイドリング時のディーゼル音は室内では多少気になるが、走りだせばまったく苦にならない。実際に走りだすと風切り音を始めいろいろな騒音が入ってくることもあるが、人間は“慣れる”という美徳を備えている。つまりその範囲の音でしかないということだ。でも車外でのディーゼル音が聞こえないというわけではない。Aクラスやスマートと違うのは、小さくてもメルセデスらしい落ち着きとしっとり感があることだ。
今回の3台には概ね好印象を抱いた。とくにAクラス。今回はマイナーチェンジだからピカピカというわけではないが、その発展型ともいえるCLAシューティングブレークも含めて新しいメルセデスを担うだけの才能は備えている。
撮影:佐久間 健