BMW 523d

「7」の質感、「3」の軽快さ。部分自動運転も馴染みやすい。

リアホイールは60km/h以下でフロントと逆位相に、60km/h以上で同位相に操舵される。回転半径を小さくし、直進安定性を高める

実際の加速フィールは数値(0-100km/h加速7.5秒)以上のモノがあった。ディーゼルでも走り出してしまえば音はまったく気にならない。

部分自動運転の挙動の違和感は少ない。レーンの中央をキープする時も加減速時もジワリジワリとスムーズ。乗り心地は7シリーズに迫る。


アルミやアルミ合金を多用して約80kgの軽量化を実現した。リアは意外にすっきり。Cd値0.22のボディも静粛性や好燃費に貢献している。

例によってドライバー側に少し傾けられたインパネ。手の動きによって機能をコントロールできるジェスチャーコントロールも装備する。

試乗車の2ℓ直4ツインターボ・ディーゼル。ほかに2ℓ直4(184ps/252ps)、3.0ℓ直6(252ps)のガソリン、さらにハイブリッドも。


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 エンジンボタンを押していったん外に出る。クンクンというディーゼル特有の音が少し聞こえる。マツダCX-3ほどには静かではない。シートにおさまる。外で耳に入った音はほとんど消えた。実際にはオートストップ機構が付いているから今やアイドリング時のエンジン音や振動はあまり関係ないんだけれど──それはともかく、アクセルを踏み込んだらディーゼル云々なんて意識は耳からも脳からも飛び去ってしまった。
 ディーゼルらしい太いトルクが一挙に目を覚ます(もちろんアクセルの踏み方による)。凄い。そして同時に訴えてくるは「どう? ぼくって高級で上品になったでしょ」とでもいわんばかりの自信満々だ。認めざるを得ない。 
 試乗車は2種類用意されていた。540i Mスポーツと523dラグジュアリーである。迷わず523dを選ぶ。540iがいいことはおよそ想像がつくからだ。3ℓ直列6気筒(340ps)の滑らかさと力強さに何度アタマを下げさせられたことか。
 しかし、ディーゼルに関しては必ずしもそうではなかった。トルクは圧倒的だったが音はやや気になっていた。今回は試乗時間も長かったし高速道路を走ることもできた。時間的にも場所的にもこのディーゼルの性格を正確に確かめることができたのである。
 523dのエンジンは2.0ℓ直列4気筒ツインパワーターボ・ディーゼル。最高出力190ps、最大トルク400Nm。燃料消費量は21.5km/ℓ。先代のディーゼルが16.6km/ℓだから燃費は約3割のアップだ。0-100km/h加速は7.5秒(先代は8.1秒)。530iの6.2秒、540i xDriveの4.8秒に比べれば大したことはない。でも今回の試乗で不足を感じることがなかったのも事実だ。
 何故か? それはこのモデルがビジネス・セダンという位置づけだからだ。日本ではBMWというと3シリーズのイメージが強いが、ヨーロッパではむしろ5シリーズを思い浮かべる人の方が多いらしい。これはリムジーンというとキャデラックを思い浮かべるが、ニューヨークではリンカーンの方が目立つのと似ている。ビジネスとなれば、突出したスポーツ性能よりもゆったりした性能が好まれる。ただし曖昧ではならない。
 ニュー5シリーズはそうした要望によりしっかり応えるクルマになった。もともとFRらしい素直なハンドリングを備えていたが、今回それらがもっと大人っぽくなった。乗り心地は穏やかに、エンジンはよりスムーズに、曲がるときもより自然に。それでも、どちらかというと落ち着いた感じの強いメルセデスのEクラスよりもスポーティだ。サスペンションにもステアリングにも手を入れられたが、それらをベースで支えたのが80kgの軽量化だろう。
 5シリーズにも半自動運転技術は導入されている。しかもモノによっては7シリーズより進んでいる。
 例えばアクティブ・クルーズ・コントロール──前車との距離を維持するための自動加減速、停止や再加速も自動で行う。例えばステアリング&レーン・コントロール──アクセル、ブレーキ、ステアリングを自動操作し車線の中央に導く。例えばアクティブ・サイド・コリジョン・プロテクション──隣車線のクルマとの側面衝突の危険性が高まった場合にステアリングに介入し衝突を回避するなどなど。
 これらの挙動が、似たようなシステムを採用するクルマの中ではもっとも自然で違和感が少ない。システムが装備されているか否かではなく、それがどれほどドライバーに受け入れられやすいかどうかがこれからは重要なポイントとなる。ただ残念なのは、現地では設定されているウインカーと連動した車線変更システムが日本仕様車には設定されていないことだ。これでは、メルセデスEクラスの方が進んでいると判断されかねない。
 とはいえ、ニュー5シリーズには7シリーズのエレガントさと3シリーズの軽快さがほど良い味付けで同居していた。そういう点で、新しいアッパーミドルの誕生である。
報告:神谷龍彦
撮影:佐久間健

最終更新:2017/03/06