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最近のコンパクトSUVには珍しく、ステアリングは重めだ。しかし妙なフリクションは一切ない。ワインディングに入って速度を上げる。クルマは操舵に対して正確に方向を変える。気持ちいい。乗り心地は“ミニ“としては異例なほどいい。
その代わりに、これまで必ずついてまわっていたゴーカート・フィーリング──ステアリングもペダルもドライバーの操作に機敏に反応し、地上すれすれを走るような独特の走行感──はほとんど姿を消した。
1959年.「大人が4人乗れて、しかも小さな乗用車をつくれ」というトップの要求にBMC(ブリティッシュ・モーター・コーポレーション)のアレック・イシゴニスらはミニを用意する。エンジンをフロントに横置きした前輪駆動車。ギアボックスはオイルパンの中に押し込めた。タイヤを前後一杯に押しやって居住空間を稼ぎ出した。画期的アイデアだった。
サスペンションはハードなゴム製(ラバーコーン)。ステアリングのギアレシオは速く、小気味よく曲がった。後ろのロールセンターは地面すれすれ。10インチという極小タイヤは回転惰性モーメントを抑えた。3050×1410mmのボディは一昔前の軽自動車とほぼ同じサイズだ。しかも車重は600kg台と今からは考えられないほど軽かった。
ちなみにオリジナルのエンジンは850cc、パワーは34馬力しかなかった。そのチューニングバージョン(クーパー、クーパーS)がモンテカルロラリーで3勝もした。まさに驚異的だった。
大きいことはいいことだろう。おおむね。
しかし幾多の紆余曲折を経て1990年代後半にBMWの傘下に入る。初代のBMWミニが登場したのは2001年(日本は2002年)。この時のボディサイズは全長3625㎜×1690㎜。小型車としては普通のサイズだが、ミニとしては大きくなった。いくつものバリエーションを加えつつ2006年に2代目に移行する。全長は3715〜4120㎜、全幅は1685〜1780㎜。また少し大きくなった。2010年にはカントリーマンが追加され、日本では商標の関係で「クロスオーバー」と呼ばれる。全長4105㎜、全幅1790mm、全高1550㎜。2015年に日本で最もよく売れたミニはこのクロスオーバーだった。
さて冒頭に触れた2代目クロスオーバー。全長4315㎜、全幅1820㎜、全高1595㎜。最も大きなミニだ。初代と違って車高のせい立体駐車場には入らない。エンジンはさしあたり2リッター・ディーゼルターボのみだ(150馬力 & 190馬力)。なぜなら初代クロスオーバー販売の約9割がディーゼルだったから。秋には1.5リッター3気筒エンジンとモーターを組み合わせたハイブリッド(224馬力)輸入される。
従来のクロスオーバーは独自のプラットフォームを採用していたが、2代目からはクラブマンやBMWのX1などと共用する。もともとミニのボディ剛性には定評があったが、ニュー・プラットフォームはさらに剛性がアップした。悪路を走る機会も多くなりそうなSUVにとっては歓迎されることだが、同時にそれはワンランク上のクラスに入ることを意味する。
となれば「変わらないこと」を大切してきたミニだってゴーカートフィールは二の次にせざるを得ない。これまで通りのプレミアム・スモールを望む人は3ドアや5ドア、さらにはコンバーチブルを、プレミアム・コンパクトが欲しい人はクラブマンやクロスオーバーをということになる。つまり、単体ミニとしてとらえるのではなく、広くブランドとしてミニ考えろということらしい。
実際、室内の質感はワンランクアップしている。荷室、後席などの実用性も大きく向上した。前述のように乗り心地もいい。しかし、エンジンの方は必ずしもそうではない。ディーゼルターボ特有の低中回転域でのトルク感はガソリンをはるかにしのぐ(試乗者は190馬力の4WD)。燃費も約37%向上した。半面、外で聞くディーゼル音が想像以上にうるさかったのだ。それなのに、車内では比較的静かだし振動もない。よほど遮音性の高いボディなのか?
価格は386万円(クーパーD)から483万円(クーパーSD ALL4)。先代同様、売れそうな予感がする。
報告:神谷龍彦
撮影:佐久間健
最終更新:2017/05/08