スタートしてたった3.2秒で時速100mmに達する。そのままアクセルを踏み続けて7.4秒待てば車速は200mmに至る。最高速度は300km/hを超える(その前にリミッターが効くだろう)。ライバルはポルシェのパナメーラやAMGのGTあたりか。
発表会の壇上でパープル(アメトリン・メタリック)の横姿を見せるBMW M8グランクーペは、その嫋やかなボディラインとは裏腹に突出した性能を秘めたラグジュアリー4ドアクーペ。ワールドデビューは昨年11月のロサンジェルスショーだった。
全長は5105mm(2ドアグランクーペよりも約230mm長い)、全幅は1945mm。こんなビッグボディが前方からすっ飛んでくれば、あるいは真後ろに迫ってくれば、ドギマギする。
エンジンは4.4リッターV8ツインターボ。最高出力は460kW(625ps)、最大トルクは750Nm。ただしこれはM8の最高峰M8グランクーペ・コンペティションのデータだ。普通のM8グランクーペの最高出力は25ps低い441kWだが、これでも十分すごい。ともに別次元であることに変わりはない。
独特のクロスバンクターボでラグを追放
エンジンにはスクロールタイプのツインターボが2基配置される。これ自体はさほど珍しいことではない。しかし、この先が新しい。2本のシリンダーバンク上を横切るように配置された(クロスバンク)エキゾースト・マニフォールドが装備される。これにより、排気ガス流のエネルギーが、2つのターボチャージャーのタービンホイールに最適に伝えられる。つまり、2つのターボで発生しがちな排気干渉がパワー効率を落す要因を排除しているのだ。
「パワーを上げるのはそんなに難しいことではありません。インタークーラーの径を上げて大量に空気を送り込めばいい。難しいのはドライバビリティとのバランスなんです。ダイレクトインジェクションシステムの最高噴射圧力を350barまで高めて、極めて微細な霧状の燃料噴射し、より効率のいい燃焼を実現したのです」。プロダクトマネジャーの御館康成氏はこう説明する。言葉をかえればパワフルでレスポンスがよく、乗りやすいということだろう。なるほど、ステージに写されたエキゾースト・マニフォールドの形状はとっても複雑だった。
お気に召すままに。高い運転自由度
内装は8シリーズと大きくは変わらないが、センターコンソールに「Mモード」ボタンが追加された。このボタンの操作によって、メーターパネルやヘッドアップディスプレイの表示方法や、運転支援システムの介入レベルを「ロード」or「スポーツ」どちらかのモードに変更できる。
「ロード」モードでは、すべての運転支援システムが有効になり、「スポーツ」モードでは、ドライバーが任意に設定した情報に基づき、前車接近警告、衝突回避ブレーキを除くすべてのブレーキやステアリング・システムへの介入を無効にすることができる。
アルミホイールの隙間から見えるゴールドのブレーキ・システムもM専用だ。各機能をコンパクトに統合し、さらに非バキューム式のブレーキブースターを採用することで、約2kgの重量削減を実現した。ペダルフィールの減速度も選べる。2種類のペダルモード設定によって、車両を減速させるのに必要な踏み込み量や初期ゲインを変更できる。電動式ブレーキだからこそ技だ。
駆動方式は4WDのみ、つまり「M xDrive」である。トルクをフロントとリアに無段階かつ可変的に振り分け、さらにアクティブMディファレンシャルの搭載により、ふたつのリアホイール間のトルクを最適化して振り分ける。これにより、必要に応じてトラクションを最適化し、俊敏性や走行安定性を大幅に向上させ、エンジンから発生するエネルギーを推進力としてほぼ無駄なく利用できる。さらに後輪駆動車らしい走りも楽しめる配慮も忘れない。「4WD SPORT」モードに加え、完全な後輪駆動走行となる「2WD」モードも用意されている。
もちろん渋滞時ハンズ・オフ機能やリバース・アシスト機能(直近の50mを自動で後退)なども装備しているし、そのあたりの不安はない。ただ、これだけ“高級”スポーツカーになるとそれなりにクルマからの要求も高いわけで、税込み価格はグランクーペが2194万円、コンペティションが2297万円。まあねえ。
ブランド別では2位。インポーター別では1位
話が前後して恐縮だが、M8のプレゼンテーションの前に昨年夏に新社長になったクリスチャン・ヴィードマン氏から2019年業績の説明があった。ちなみに彼は2005年から2008年の間BMWジャパン・ファイナンスの役員として駐日し、今回の就任直前はタイBMWの社長だった。
2019年のBMWの販売台数は6万6523台のメルセデス・ベンツに次ぐ4万6814台で2位。しかしここに好調なMINIを足すと7万627台でトップになる。以下ブランド別では、VW、アウディ、MINI、ボルボ、ジープ、PSA、ポルシェ、ルノーの順。2020年はこのM8のほか2月のMINI JCWのほかEVやハイブリッドモデルを充実させていくと言う。
最後には、プロダクトマネッジメント本部長のミカエラ・キニガー氏からバンダイナムコの40周年を迎えるアーケードゲーム「パックマン」とのコラボレーションを3月14日から行うとの発表があった。BMW 2シリーズ グラン クーペのターゲットは、常識にとらわれないで自分のスタイルを突き通すライフスタイルを持つ人とのこと。パックマンがゲーム内でパクパク食べ尽くすかのように縛りを食べ尽くし「常識や固定概念から解き放たれて自由に生きよう」というメッセージを発信している。このゲーム8割から9割の認知度があるというが、個人的にはしらない。ちなみに、2シリーズグランクーペの価格は369万円から。当然ながら8シリーズよりははるかに手に入れやすい。
キニガー本部長、ディーラーでのプレゼンテーション日本語でやることも多いそうだが、この日の発表は基本的には英語だった。その理由は?
記者会見では言葉の正確性が求められるからという。でもまあ、日本語を覚えようという姿勢があるのは日本人としてはうれしい。
報告:神谷龍彦
撮影:佐久間 健
ホイールベースは、2ドアグランクーペよりも約200mm長く約3100mm。これもカーボンあればこそ。カーボン製のルーフを軽々持ち上げる実演もおこなわれた。カーボンテクノロジーは軽量化だけでなく随所に活きる。
デビューのロサンジェルスショーではグリーンだったボディカラーはここ東京ではパープルに。ちょっと唐突なカラーだが不思議にマッチしていた。このボディカラーはコンペティション専用。
コンペティションのエキゾーストパイプはブラッククロム仕上げ。グランクーペはクロム仕上げ。
比較的明るいインテリア。スポーツカーのインパネはブラックというのはもう過去の話?
2つのターボを左右に配してエキゾーストパイプをクロスさせたツインターボ。最高出力460kW。
ターボチャージャーの排気を最大限に活かすべく工夫された複雑なエキゾーストパイプ周り。
業績などを発表したクリスチャン・ヴィードマン社長と、パックマンと2クラス・グランクーペのコラボレーションキャンペーンを告知したミカエラ・キニガー・プロダクトマネッジメント本部長。