レクサス LEXUS
5代目レクサスLSの新機軸
初代LSが世界の高級車に与えた影響は想像以上だった。

 デトロイトショーでデビューした5代目レクサスLSが日本でも公表された。と言ってもあくまでもお披露目であり、価格などは今秋の正式発表まで待たなければならない。
 「初代LSを上回る衝撃的を!」と豊田章夫は檄を飛ばしたという。3代目まで日本ではLSはセルシオ(2006年に販売中止)と呼ばれた。じゃあ、初代の衝撃とは一体どんなものだったのか?
 初代LSのデビューは1989年。日本はバブルの真っ盛り。それでも、メルセデスSクラスやBMW7シリーズは一般的には高根の花だった。こうした高級車に対して日本メーカーには一種のコンプレックスがあった。とりわけ高速性能やハンドリングの面で。
 これに真向から戦いを挑んだのがこのレクサスと日産のインフィニティだった。これまでにない高級車ブランドをつくろうという目論見だ。安かろう良かろうだけではグローバルマーケットでの先は見えている。
 "日本"を強調したインフィニティ、その後の展開は必ずしも順調ではなかったが、レクサスはアメリカではほぼ順調に台数を伸ばしていった。いうまでもなくそのフラッグシップがLS(Fセグメント)だ。
 初代の発売時、トヨタは大々的な国際試乗会をドイツで敢行した。古城ホテルでディナーパーティを開き、宿泊にはケンピンスキーという一流ホテルを選んだ。ライバルのメルセデス・ベンツSクラスもBMW7シリーズも試乗車として用意した。
 その時の印象──ともかく静かだった。分かりやすい。乗り心地もまあ悪くない。トヨタが用意したSクラスや7シリーズとの比較では、ワインディングでの操安性もアウトバーンでの直進安定性も納得できるレベルだった。というか、Sや7が思ったほどよくなかった。もう一つ感じたのは車内の安心感と操作のしやすさ。これを"おもてなし"と表現した。(ディーラーの対応も含まれる)。この分かりやすさが成功の一因だろう。
 翌年のデトロイトショー。「あなたはLSが出たとき、ライバルに値しないと言っていたじゃないですか」という鋭い質問が外人ジャーナリストから出て、当時のメルセデス・ベンツの副社長は返事に窮した。
 年末懇親会の席で「エクステリアはベンツそっくりじゃないですか」とトヨタの社長に言うと彼は答えた。「いいものは似たようなカッコウになるもんだよ」と。この衒いのなさにも驚いた。ひたすら個性的デザインを目指したインフィニティとの違いだ。
 ジャガーの英国工場に行ったときも驚かされた。工場の壁にLSを分解して得たすべての部品が展示されていた。LSの登場は高級車メーカーにとってそれほど衝撃的だったのである。
 レクサスはアメリカではポジションを確立している。顧客満足度も高い。最近は日本で見かけることも多くなった。今後の課題はブランドに対して保守的なヨーロッパと、まだまだ市場潜在能力の高い中国でどう伸ばしてゆくかだ。メルセデス、BMW、アウディの200万台近い販売台数に対してレクサスの台数はまだ二桁という事実がある。

V8からV6へ。パフォーマンスも燃費もアップ。
 11年ぶりのモデルチェンジを秋に控えたLS。長い、ともかく長い。全長は5235㎜、全幅は1900㎜、全高1450㎜。それぞれ現行モデルに比べると長く、広く、低い。とくに全幅は25㎜も広がった。おそらくロングバージョンの設定はなく、このサイズがスタンダードになるだろう。
 初めて6ライトのキャビンデザインを採用したLSはあくまでも流麗だ。新開発のGA-Lプラットフォームによるところも大きい。セダンがクーペスタイルをとるのは現在の国際的傾向だ。ただ、長く広くなっても4WS(4輪操舵)のおかげで最小回転半径は現行モデルとほぼ変わらないという。
 フロントはひときわ派手さを増したスピンドルグリル。イメージを強烈に確立したい想いは分かるがここまでやる必要があるのか。ベンツだってBMWだってこんなに派手じゃない。あのアウディだって最近は少し大人しくなった。歴史の長さが違うといえばそれまでだが。
 ハイブリッドモデル(LS500h)のエンジンは3.5ℓV6で自然吸気。最高出力は220kW(299馬力)。これに2個のモーターが付きシステム出力は264kW(369馬力)。0-100km/h加速は5.4秒だから相当速い。燃費は15.8km/ℓ、相当いい。
 LS500のエンジンは新開発の3.5ℓV6で、珍しくツインターボを備える。3.5ℓと言っても排気量はハイブリッドの3456ccに対して3445ccと微妙に異なる。310kW(421馬力)、600Nmの性能。これに10速ATが組み合わされる。現行のV8に比べると約30馬力のアップだ。加速もさぞかし強烈だろう。
自動運転へと続く最高峰のセーフティテクノロジー。
 実はここからが今回のプレス発表会のポイント。クルマ自体はデトロイトショーでもジュネーブショーでも、さらにニューヨークショー(F SPORT)でも発表している。レクサスが日本で改めてアピールしたかったのは未来を見通した最新テクノロジーだ。単なる安全技術だけでない。その先には自動運転がある。
 このあたりは各メーカーともに(サプライヤーも含めて)、通過点&着地点が必ずしもはっきりしないまま対応を迫られている。不確定要因も多々ある。いずれにしてもレクサス(トヨタ)の安全・自動運転技術は世界トップレベルであることは間違いない。
 自動運転にはレベル1からレベル5まである。ちょっと前まではレベル1から4だったが、最近はレベル4を4と5に分けて5段階にすることが多い。
 ちなみに、レベル1は自動制動、車線維持、前車追従などのどれか一つを自動化すること。あくまでも運転の主体はドライバーだ。レベル2は上の機能を同時に複数実現するシステム。これも主体はドライバーだ。たとえばセレナやエクストレイルのプロパイロットはこれにあたる。しかし、ここからレベル3へジャンプアップするときのハードルが高い。
 レベル3は加速・操舵・制動を自動化。主体はドライバーからシステムに移る。ただし、システムがドライバーのコントロールを要請するケースもありうる。4は高度自動運転と呼ばれるもので、高速道路などの一定の条件下ですべての操作をシステムが行う。5は完全自動化。レクサス現時点ではレベル2だが、それなりに内容は濃い。
 まず「レクサス セーフティ システム+A」。これは従来の「同システム+」に新しいシステムを追加すると同時に旧来のシステムも改良している。たとえば歩行者検知機能PCS(プリ・クラッシュ・セーフティ)。従来は自動ブレーキだけだったが、衝突しそうな歩行者がいる場合はヘッドアップディスプレイに歩行者の存在する方向をアニメで表示する。
 自分の車線前方の歩行者やガードレールなどと衝突する可能性が高く、しかもブレーキだけでは衝突を避けられず、クルマが操舵制御によって回避できると判断した場合は警告とブレーキ制御に加え自動でステアリングを切る。さらに、自転車や夜の歩行者も検知する。
 自動運転につながる技術としては「レクサス CoDrive 」。その運転支援技術のひとつがカーブへの進入スピードが速すぎる場合は、ナビ情報をもとにヘッドアップディスプレイなどで注意を促すとともに自動で減速をする。もうひとつは「レーンチェンジアシスト」。ウインカーレバーの操作によって、周辺の道路事情をチェックし、最適なタイミングで操舵と加減速をすること。日本車としては初の採用だ。 「アダプティブハイビームシステム」も進化した。LEDヘッドライトの数を増やして上下2段で配光エリアをきめ細かく調整。ハイビームでの走行頻度を増やした。
 「フロントクロストラフィックアラート」は世界初のシステム。交差するクルマがある場合は前側方レーダーが感知しヘッドアップディスプレイで注意を喚起する。
 「レーンディパーチャーアラート」はアスファルトと草・土・縁石などの境界を認識し、車線のない道路でも路外逸脱の可能性を警告し、操舵を一部支援する。
 自動運転で最優先すべきは安全であるとレクサスは言う。目標は交通事故ゼロ。ただ、そのためには技術やインフラなどクリアしなければならない問題がある。レクサスは、専用道路での自動運転は2020年くらい、完全自動運転は2030年頃に実現したいと言う。
 誕生してわずか28年、初代のデビュー時を知る者にとっては感慨深いものがある。
報告:神谷龍彦
写真:怒谷彰久

新開発のGA-Lプラットフォームの採用でこの低いエクステリアデザインができたという。

レクサスLSとしては初めての6ライトキャビン。全長は現行モデルのロングよりも長い。

全幅は1900㎜。現行車より25㎜も広い。確かに目立つ顔だけどちょっと派手すぎでは?

フロントに比べるとリアのデザインはシック・ビューティ。高級車はこのくらいの方がいい。

3.5ℓV6エンジン。有段ギアの自動変速機構と組み合わされる。0-100km加速=5.4秒と俊足。

インテリアは水平基調。質感は当然のように高い。後席のレッグスペースも余裕がある。


最終更新日:2017/07/01