スーパーワンの開発の方向性として、軽のEVプラットフォームを活用しながらもその枠にとらわれない、自分たちが創りたかった「FUNなAセグメントモデル」があった、と語るのは開発責任者の堀田英智・四輪研究開発センターLPL。そのグランドコンセプトとして、日常を自分の力で面白くする「ユカイ」、瞬間的にFUNが伝わる「メイカイ」、日常で得られる達成感と刺激という「ツウカイ」という「キモチタカブル」「e:Dash BOOSTER」が掲げられた。そのイメージ図には、ワクワク!、バビューン!、キュンキュン!、イキイキ!など、カタカナと「!」マークが数多く書き込まれていた。
スーパーワン(Super ONE)というネーミングには、これまでのEVの常識や軽自動車の枠を超越する「Super」と、ホンダらしい唯一無二(One and Only)の価値をお客様に届けたい、という想いを込めた。
EV時代の楽しい車
昔ホンダが得意としていた領域、つまり楽しいクルマである、と語るのは四輪研究開発センターの赤嶺宏平チーフエンジニア。楽しいクルマとは、踏み切れるパワー、軽い車重、普段使いにも対応、という3つの要素が組み合わされたものだという。モーターの最高出力は70kW、95PSで、これを車両重量1090kgという軽量ボディに乗せたのがスーパーワンの特徴。軽量化技術がものすごく進んだ軽自動車のプラットフォームをうまく活用したのがミソで、例えば同じAセグメントのフィアット「500E」は1300kg、ヒョンデ「インスター」は1400kgあたりで、圧倒的な差をつけていると説明した。
さらに車体センターの低い位置に配置したバッテリーによってガソリン車よりはるかに低い重心高を実現。50mmトレッドを広げると共にサスジオメトリーを最適化したことで、ハンドルを切った時に発生するヨーレート(横方向)の遅れが非常に少なくなり、いくら切ってもどんどん曲がっていくという踏ん張り感は、従来のものでは考えられないレベルになっているという。
ブーストモード時に表現できる仮装有段の7段ギアシフトやパドルシフト、BOSEスピーカーシステムを使った車体前方からのエンジン音、後方からの排気音などのリアルな音場表現など、楽しい演出を盛り込んだ。
航続距離はWLTCモードで274kmを達成していて、日常で安心して使える実用性と、走りの楽しさを両立したと謳っている。
令和のブルドッグ
ベースとなったのは見ての通り軽EVの「N-ONE e:」で、その四隅に超ワイドなブリスターフェンダーを取り付けた。この出立ちは、ちょっと昔のクルマ好きならあの「シティ・ターボII」、通称"ブルドッグ"を思い浮かべる人も多かろう(開発者も当然意識している)。フロントフェンダーにはカーテンエアダクト、リアフェンダーにはブリーザーダクトと呼ぶ薄いスリットを設けるとともに、フロントグリルのオフセットした位置にパワーバルジ、ルーフ後端には長いウイングを取り付け、設地感や空力、冷却効果を高める装備としてわかりやすい形で配置している。
ボディカラーは5色あり、そのうちちょっと深い紫色の「ブーストバイオレット・パール」は宇宙に向かって走る雷「ブルージェット」をモチーフにしたという専用色。なかなか個性的だ。
水平基調のインテリアも基本は「N-ONE e:」。フロントシートはホワイト、ブラックにブルーをアシンメトリーに配色した専用のスポーツシートだ。(11-1)ステアリング右スポークにはブーストバイオレットパールカラーのボタンが取り付けられていて、その色の通り走りを「BOOST(ブースト)」する役割を担っている。
袖ヶ浦のサーキット走行
袖ヶ浦フォレストレースウェイでの試乗では、ホームストレートの走行はなしで、1セット目は開発者同乗にて7分間でコースを2周、2セット目は単独ドライブで10分間で3周するという短時間のドライブだ。
1セット目の1周目はドライブモードを「ノーマル」や「シティ」モードに入れて走行。シティでは静かなワンペダル走行ができ、通常使用時のEVらしくイージーな走行が行える。ピットレーンを通過した後の2周目は、お待ちかねの「BOOST」モードに入れて走行。メーターは紫色に変わり、スピード表示の下側には左から「バッテリー温度」、「タコメーター」(シフトタイミングを見極める仮装エンジン回転数)、「パワーメーター」(リアルタイムの駆動/回生出力)の丸型トリプルメーターが現れる。これはかつてのシティ・ターボ?"ブルドッグ"のダッシュボード中央に配置されていた「ブースト計」「デジタル時計」「タコメーター」のアナログ3連メーターをオマージュしたもの。あのブースト計は、確かアクセル全開時には10秒間だけ過給率が10%上がる仕組みになっていて、それをみているだけで気分を高揚させるものだった。
スーパーワンではこの時に電流制限が開放されて70kWまで出力が拡大される設定で、さらにアクティブサウンドコントロールによって4つのドアスピーカーから擬似エンジンサウンドが聞こえてくる。本コース進入時にアクセルを床まで踏みつけると、1周目とは異なる「グイッ」と背中を押しつける加速感と、低速時には「ドリュウウウン」というエンジンの太いトルクを感じさせる音が味わえるようになり、車速が上がると高回転時のような吹け上がり音になっていく(個人的にはもう1段高いハイトーンの「ホンダミュージック」が聞こえてきたら、というのはあったけれども)変化が楽しい。EVだからといって、ジェット機のような音や不思議な電子音はかえってないほうがいい。
2セット目は、BOOSTモードで−(マイナス)パドルを長引きして仮装の7段有段シフト制御に。レブリミットはスポーツモードより30%アップした位置になり、シフトアップポイントまで回すとメーターが点滅して教えてくれる。そのまま上限に達すると、エンジン車でレッドゾーンに当たった時のように「ブブブッ」と加速が鈍って頭打ち感まで伝えてくる。ダウンシフト時もキレのある回転数変化が表現されていて、走りのリズム感がつかみやすい。
高い速度で侵入するゆるい下り坂の第3左コーナーでは、50mm拡大されたトレッドやボディ中心の低い位置に搭載したバッテリー(この2つが一番効いている)、長い方は太く、短い方は細く、という左右等剛性ドライブシャフト、専用アルミ鍛造ロアアーム、剛性アップしたハブ、クイックレシオ化した電動パワステなど専用セッティングのシャシーによって、筆者程度の腕ではタイヤ(185/55R15のヨコハマ・アドバンFLEVA)を鳴かせることなく、リアが粘りつつクルリと回頭していく感覚が素晴らしい。そして、何より気に入ったのがブレーキ。1090kgの軽量ボディとサイズアップしたブレーキディスク、これに回生ブレーキがうまくマッチしていて、本格スポーツカーのような剛性感を伴った減速が行えるのだ。
価格設定も(補助金を使えば)すごい
スーパーONEの車両本体価格は339万200円。購入時には国のCEV補助金が130万円、東京都の場合はZEV補助金の60万円が追加される。つまり、自治体補助金なしで実質209万200円。東京であれば実質149万200円で手に入れることができる(状況やタイミングによるが)。さらに自宅の電力を再エネ100%にしたり、太陽光発電を導入したりすれば、実質124万円台まで下がるケースもあり得るのだ。その性能と購入価格を考えたなら、人気が出ないわけがない。(了)
報告:石原 彰











