ホンダ N-WGN (1)

肩に力を入れないで。実力十分の自然体が魅力

最高出力はお約束の64ps。でもトルクが太いから以前のように高回転まで回す必要はない。

ターボを装着したカスタム。軽自動車の常で自然吸気モデルとはフロントデザインが異なる。

何よりも「見たいところが見える」のがいい。ピラーは細いしワイパーも見えない。視界良好!



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 ホンダ本社の青山ビル前の交差点から国道246号(通称・青山通り)に入り、最初の信号を右折すると、まるで高精細の4Kフルハイビジョンのワイドスクリーンに映し出されたようなシンメトリーな美景が広がる。「〇〇心と秋の空」ではないが、この日は大型で非常に強い台風19号の影響で、あいにくの曇り空だったが、正面の奥にどっしり構える絵画館までの通りの両側には天高くそびえるイチョウの大樹が整然と立ち並び、その美しさに魅了される。
 今回、試乗する機会があったのは、ホンダが今年8月に発売したばかりの新型軽自動車「N-WGN・Custom」。ボディカラーは「プレミアムアガットブラウン/パール&ホワイト」の2トーンタイプで、外観から「軽」とも思えないような上質感が伝わる。
 ホンダの軽自動車「Nシリーズ」の中で、「N-BOX」は9月時点の新車販売台数で25か月連続トップを続ける国内で一番売れているクルマだ。N-WGNはその兄弟車種で、新型モデルは約6年ぶりの刷新という。現在、自動制御のパーキングブレーキに不具合が見つかり、一時的に生産中止に追い込まれたのは残念だが、「ハイトワゴン」と呼ぶジャンルでは人気の車種である。
 まず、ハンドル右下のスタートボタンを押す前に運転席に座って感じたのは視界の広さである。発売前のメディア向けの技術説明会でも開発責任者の古舘茂氏は「前席の窓枠をできるだけ細く、ワイパーの位置を下げ、より広くすっきりした視界を確保することで、クルマの周囲を確認しやすく工夫した」と説明。加えて「慣れない道でも安心して、運転が楽しめるように、誰もが心地よく使えて、親しみやすさを感じるクルマを目指した」とも強調していた。
 なるほど、運転席からボンネットをのぞき込んでもワイパーが見えないのですっきり感がある。絵画館前のイチョウ並木はセダンタイプのマイカーでもよく走り抜ける道だが、窓枠の比較的狭いマイカーではN-WGNの視界のような遠近感がはっきりする景観美を眺めたこともなかった。

パーキングもとってもラク。モニター見ながら一発で

 明治神宮外苑のその通りは秋が深まると都内でも屈指の黄葉スポットに衣替えするので”黄金ロード”とも呼ばれているそうだ。イチョウの木が黄金一色に染まるには少し時期が早かったが、それでもわずか300メートルほどの美しいイチョウ並木を一気に走り抜けてしまうのは情趣もなく、もったいない。そんな気持ちを抱きながらもハンドルを握る右手の指先がためらいもなくウインカーレバーを軽く持ち上げると、左側のドアミラーの方向指示ランブが点滅する。
 その通りは片側3車線の広い道幅だが、平日の昼下がりになると、路肩にタクシーや営業車を停めて休憩しているドライバーも多く、一時的に駐車するスペースがなかなか見つからない。それでも後方の車両に迷惑にならない程度のスピードで走り続けると、50メートルほどの前方の路肩に駐車していた軽トラックが右側のウインカーを点滅させながら立ち去った。
 「よし、そこに停めるぞ」と、まずはバックミラーで後方車両を確認し、インパネ中央のナビの右下にあるハザードスイッチを押す。幸いにも、後続車はそれほど接近していなかったが、不安がよぎる。軽トラックが去った前後にも縦列駐車のクルマがあり、そのスペースはわずか4.5メートル、頭から突っ込むほどの空間はなく、バックで切り返して駐車する方法しかない。
 正直、馬齢を重ねるにつれて、駐車が苦手になる。慣れたマイカーならばそれほど問題ないが、初めて試乗するクルマは車両感覚がつかみにくい。それでも、シフトレバーを「R」に入れてみると、ナビ画面に鮮明すぎるほどのバックモニターの映像が映し出された。
 振り向いて目視でも後方を確認すると、前方視界と同様に広々としたウインドウですっきりとした眺めで見通せる。「視界も良好、これなら大丈夫」と、思いつつ周囲に注意を払いながらモニターに映る白線に従ってアクセルを軽く踏んでハンドルを切ってみた。なんと、1度も切り返しをすることもなく、一発でスムーズに駐車が出来たのである。
 降車後カタログの仕様を見ると、リアバンパーには4つの超音波センサーを搭載。バックの際には障害物の接近を警報で知らせてくれる運転支援機能を標準装備しているという。いわゆる、高齢ドライバーの事故の原因にもなっている「踏み間違え」による急な発進を抑制する機能でもある。今回の試乗はわずか30分ほどで、いろいろな機能を確かめることはできなかったが、そんな中でも、新型N-WGNの一つのセールスポイントとされる「見たいところが見える」すっきりとした視界と、駐車時などの安心感は短時間の試乗でも体感することができた。
報告:福田俊之
写真:ホンダ

最終更新:2019/10/14