アウディ A1 スポーツバック(1)

日本の道で健全に運転を楽しむならコレ

前後のブリスター風フェンダーやボンネット下のスリットなど、例によってスポーツクワトロにこだわったエクステリアも。

前後のランプはもちろんLED。そのデザイン処理にも、新しいA1が目指した丸から角へという新哲学がうかがい知れる。

お約束のバーチャルコクピットに10.1インチカラーディスプレイ。MMIナビゲーションシステムはタッチでピンチンアウト可能。


中央に地図表示はもちろん、タコとスピードのメーターのサイズ、表示情報の種類も変えられる。最初にTTで感じた違和感はない。

リアシートはお世辞にも広いとは言えないが、それは必ずしも欠点じゃない。普段は4ドアクーペと割り切って使えばスマート。

試乗車のエンジンは昨年末に発売されている1.5ℓ気筒(110kW)。新しさと安さで言えば1ℓ3気筒(70kW)の方に注目だろう。


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 丸かった先代から一転、2代目A1は“四角”になった。WRCホモロゲ・モデル、“スポーツクアトロ”の意匠を(ダミーで)取り入れているが、商品企画としては、スポーティーなイメージを与えたいということなのだろう。

ワインディング、操舵感でもDynamicモードに

 四角いせいもあって、見た目には一瞬A3かと思ったくらい大きいが、実際はQ2より少し小さい。全長は4045?で、旧型比で公称55?長い。それ以上にホイールベースが95?長く、後席居住性を向上させているが、走りの点でも好影響だろうと思う。
 内装もさま変わりして四角基調になり、金属調加飾などで最新のアウディらしい印象。ドライバー中心の仕立てはスポーティー志向が感じられる。前席は着座位置がやや高めの印象で、残念ながら後席はまだ比較的タイトである。
 走っての第一印象は、乗り心地の硬さ。以前に同じ車両で山道を走ったときは感じなかったが、市街地を低速で走ると、路面の凹凸をダイレクトに拾う。加えてロードノイズが目立ち、あたかも空気パンパンのゴムまりが共鳴しているかのよう。ふと思って指定空気圧を見たら、履いている17インチの場合、前2.7/後2.5とあり、かなり高め。ただ、ダブルスタンダードで快適性重視の空気圧として、前2.4/後2.2も指定されている。念のためスタンドで計ったら前が2.6ちょっとだった。高い空気圧は燃費のためかと思うが、まあ低いほうの2.4にかぎると思う。
 もうひとつ気になったのは、ステアリングの軽さ。今回のSラインは走行モード変更ができるが、通常モードではかなり軽い印象である。以前に乗った標準モデルはこの軽いほうが固定のデフォルトだったと思うが、ワインディング路では心もとなく感じた。今回、街中では問題なかったものの、カーブの続く区間ではやはり軽いと感じた。山道をとばすなら、重くなるDynamicモードにかぎると思う。

Efficiencyモード、アクセルオフ時の空走に注意

 新開発の1.5リッターは、出力は110kW(150ps)と中庸だが、トルクが250Nmと十分ある。直噴だからかあまり快音ではないが、排気の音質は重厚で、Dynamicモードで回転を高めに保って積極的に走るとそれなりに高揚感があり、特性的にも申し分ないと思った。
 変速機はDCTだが、興味深いのは、Ecoに相当するEfficiencyモード。アクセルをオフにした瞬間に、エンジンを遮断してアイドリング状態にさせて、空走する。空走なので下り坂では加速さえする。ちょっとでもアクセルをぬくとすぐさま頻繁にこの状態になる。アクセルを踏みなおすとすぐに回転が上がり、実際に加速が始まるまでには、ひと昔前のATくらいの時間差があるが、つながるショックはない。だから試乗の途中までこの仕掛けに気づかなかった。試しにそこからいきなりアクセル全開にしても、一瞬置いて急加速を始めた瞬間のGのショックはあるが、機械的なショックはない。このほかに気筒休止機能があるが、それは体感できなかった。
 2代目A1は、スポーツクワトロのイメージまで入れていながら、クワトロの4WDモデルはないし、硬派なS1の設定は今後もないらしい。このクルマの背景には、燃費規制の厳しい圧力を想像してしまう。本国には2リッター147kW(200ps)仕様があるが、ただ今回の1.5リッターでも力は十分。なによりシャシーの仕立てがよく、とくに引き締まったSラインは、ロールも少なくピタリと安定してコーナーを走り抜け、日本の道で健全に運転を楽しむならこれがベストだと思った。乗り味も価格も「かなり大人」なので忘れがちだが、軽快な走りはコンパクトカーならではの資質。当代人気のSUVは車高が高くて、こういう走りはできないから、A1がスポーティーを強調するのも道理だと思った。

報告:武田 隆
撮影:佐久間 健

最終更新:2020/12/19