BMW4シリーズ

最後の?非電動エンジンは完璧、乗り味はしなやか

貴重な直列6気筒エンジンはスムーズで強力、完璧とも言えるエンジンのグランクーペ。走りは可変ダンパーでしなやかさも見せる。

この4シリーズの大きな特徴は縦長のキドニーグリル。強い押し出し感でギョッとするが、すぐに慣れそうだ。

3シリーズと比べるとホイールベースは基本的に同じだが、リアオーバーハングが少し長い。サスの取り付け部などが強化されている。


(上)2ドアのクーペ。これを含めて3車ともM440i xDrivedeで、4気筒モデルとは車格が違う高価グレードだ。(下)グランクーペはサイズが245/40R19で、225を装着した他の2車よりタイヤが太い。ブレーキも強化されているようだ。

(上)インストルメントパネルとステアリング。大きなナビ画面はないが、運転支援システムは最新世代へと進化している。(下)2本のタワーバーが目立つエンジンルーム。エンジンは2997ccの直列6気筒DOHC。最高出力285kW(387PS)/5800rpm、最大トルク500Nm/1800-5800rpm。

(上)粋なたたずまいのカブリオレ。走りはコンフォート志向で、ボディ剛性も気にならない。後席はタイトで荷物置き場と考えたほうが良い。(下)ソフトトップは凹凸がなく継ぎ目も目立たない。頑丈な作りで遮音性も高く、力作だ。


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 クーペ系の4シリーズは、もともとは3シリーズのバリエーションだったが、先代から独立して4シリーズを名乗るようになった。新型は引き続き3シリーズをベースとしているが、今回従来にない差別化が図られた。

縦長グリルの意味を考えた

 その差別化とは、注目の縦長キドニーグリルである。このデザインを予告するコンセプト4が2019年に発表されたときは、その強い押し出し感に正直ぎょっとしたが、今回向きあってみて、このグリルはすぐに慣れるだろうと感じた。そのうち逆に従来の横長のグリルが物足りなく見えそうにさえ思った。
 近年、衝突安全のために、グリルを含めたノーズの樹脂製バンパー部分が拡大している。先代3/4シリーズでは、グリルの後方まで樹脂パーツを拡大したためエンジンフードのシャットラインが目立ってしまっていたが、おそらくそれを避けるために新型3シリーズはキドニーグリルの位置を高めた。
 しかし、フォーマルなセダンの3ならそれでよいが、クーペの4シリーズではやはりグリルを低くして、ノーズを精悍に見せたい。そこでフードのシャットラインが多少目立ってでもグリルの上辺を低くし、さらに下に伸ばすことで視覚的重心を低くしたのではないかと思う。
 グリルが縦長なのは1930年代の328などへのオマージュと説明されているけれども、その頃のグリルは、ずっと幅が細かった。現代の新型4シリーズでは、グリルそのものを大きくしたい意図もありそうだ。身近なライバルでは2004年以来アウディがシングルフレームグリルを採用しているのをはじめ、巷に大きなグリルのクルマが目立っており、BMWもその流れに乗り始めているわけだ。
 アウディのグリルも最初はいろいろ言われたが、すぐ受け入れられて進化し続けている。縦長キドニーグリルも同じ道をたどるのだと思う。ただ今のところ、2や8など、ほかのクーペモデルでは、従来型の横長グリルを採用し続けるようだ。
 ハイパフォーマンスのM4ではよりアグレッシブなグリルデザインとなっており、これがクルマのキャラクターに合っていて、非常にかっこいいのだが、それに比べれば通常の4のグリルはおとなしく見える。攻めつつも吟味してデザインされたのだと思う。
 実はグリルの大型化には、もうひとつ理由がある。似たような大型縦長グリルは、iXなどのEVモデルにも採用されており、とくにi4は4と共通ボディなのでまったく同じグリル形状である。大型グリルは運転支援システムに必要なセンサー類を搭載するのに適しており、そのためとくに先進的なEVで積極的に採用している面がありそうだ。とはいえデザイン上の理由がもちろんあり、本来必要のないEVでさえ大きなグリルをあえて採用しているのは、それだけ大型グリルが好まれているからだろう。

今や貴重な非電動6気筒エンジン

 3シリーズと比べて、そのほかでは、ホイールベースは基本的に同じで、リアオーバーハングが少し長い。また、4シリーズらしいダイナミックな走りのために、サスペンション取り付け部などが強化されているという。
 試乗したのはクーペ/グランクーペ/カブリオレの、いずれもM440i xDrive。387psの3L直列6気筒ターボに4WDという、Mパフォーマンスモデルの高出力かつ1000万円超の高価なグレードで、4気筒モデルとはいささか車格が違う。このエンジンは出力の面でも質感の面でも欠けているものなどなく、直6の完全バランス云々などというより、もう完全なエンジンと言ってしまった方が早そうだ。車両価格のうちこのエンジンの占める割合がどれだけかとも思うが、BMWも電動化を急速に進めているから、非電動エンジンを買えるのもそう長くないかもしれず、そういう意味でも価値ある存在だ。
 スポーツモードでは排気音も迫力を増す。カブリオレで幌を下げてトンネル内を走ったときには、都心などで時折見かけるスーパーカーが発しているのと同じ類のサウンドだと思った。ただM4だともっと刺激的になるとも思う。

しなやかな乗り味

 乗り味は、最初に乗ったグランクーペは非常にしなやかで、とくに可変ダンパーのComfortモードでは、スポーティーモデルとは思えないしなやかさだ。以前にほぼ同じコースで走った3シリーズのM340 i xDriveは、メモを見返すとやや硬めとあるが、そういう感じはない。タイヤサイズが245/40R19であり、M340とほかの2車が履く225よりやや大きいが、バネ下が重くてもハイトがあるぶんショックを吸収するのかもしれない。シャシーの剛性強化が、乗り心地にもよく影響しているかとも思う。
 クーペはやや硬さが感じられたが、387psという動力性能のクーペモデルであれば、これぐらいだろうという感じである。硬いとはいえボディはしっかりしているし、不快感はない。クーぺだけはブレーキが強化されているようで、踏み始めからの応答性、感触がよく、スポーツ走行では頼りになりそうだ。 ほかの2車よりスポーツ志向だが、それでも快適さがある。街中を走っただけで真髄を見ていないからとは思うが、刺激を追求するならやはりM4が本丸なのだなという気持ちも残った。

優美なデザインのカブリオレ

 カブリオレはグランクーペ同様にやはりクーペよりコンフォート志向である。ボディ剛性が多少は落ちているのだろうが、続けて乗り比べても、とくに気にならなかった。カブリオレは幌が力作だ。まず閉じたときの佇まいがすばらしい。折りたたむ幌にはふつう蛇腹を伸ばしたような凹凸があるが、それがまったくなく、継ぎ目もほとんど目立たない。さらに、リアウィンドウも面一になっている。
 先代は収納式ハードトップだったのが、伝統的なソフトトップに戻ったという経緯だが、それはまったく正解で、やはり幌を上げたときのたたずまいが粋である。4シリーズは前面のデザインはアグレッシブだが、サイドはキャラクターラインを廃したスムーズなボディで、ソフトトップのほうもクーペのごとくスムーズだから、たいへん優美に見える。このトップは頑丈なつくりで遮音性も高く、トンネル内でも幌を上げれば音は気にならない。
 カブリオレの後席は試せなかったが、クーペの後席はさすがにタイトで、ただ短時間なら前後とも大の男の組み合わせでもなんとかなりそう。グランクーペは姿勢によっては頭の位置に制約もありそうだが、基本的にはファミリーカーとして使えるだろう。
 細かいところでは、グランクーペだけはドアハンドルが異なり、ボディ表面の凹凸が少ないデザインになっている。ボディを共用するEVのi4に合わせて、空気抵抗の少ないデザインを採用したのかもしれない。

レポート:武田 隆
Photos:佐久間 健

最終更新:2021/11/15