ルノー ルーテシア

 

先代からの変化が少ない5代目ルーテシア。ヘッドランプのC字型意匠などで最新世代であることがわかる。

試乗車両はルーテシア・インテンス。ホイールベースは2585mm。ボディ外寸は4075×1725×1470mm。

ダイムラーと共同開発の直噴4気筒1333ccターボ。131ps/5000rpm、240Nm/1600rpm。


荷室は深さもあり、容量は391L。後席シートバックは6:4の分割可倒式。

ステアリングホイールは、心地よい握りのソフトスキン。メーターパネルは7インチの液晶。

先代より大幅に質感が向上した内装。ソフトパッドも使用している。DCTは7段。


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 ルノー・ルーテシアの広報車をお借りして、試乗する機会があった。一見先代モデルと思ってしまうくらい、見た目が変わっていないが、中身はおおいに進化している。

安定感のあるデザイン

 ルノーは、モデルチェンジごとにデザインが変わる傾向がある。そうであっても、歴代ルーテシアでも、過去モデルとの連続性はいつも考えられていたのだが、この5代目ルーテシアの「変わらなさ」は、ブランド始まって以来のものではないかと思う。

 キープコンセプトになった背景としては、先代がヨーロッパでベストセラーだったことがある。とはいえ、売れたモデルががらりと変わるのも珍しくなかった。前衛的デザインの導入で知られたパトリック・ルケマン氏がデザイントップだった時代には、世代ごとの変化がとくに大きかった。しかし現在の、後任のヴァン・デン・アッカー氏の時代になって、ルノー各車のデザインは、おもしろみはやや少ないかもしれないが、安定感があるものになっていると感じる。

質感が大幅に向上した内装

 外観とはうってかわって、内装は大きく変わった。先代はいかにもシンプルだったが、だいぶグレードアップした印象だ。ダッシュボードは、最近の主流である水平基調のデザインで、試乗車の場合は前面が白、エアコン吹き出し口には赤の水平ラインが入り、ソフトパッドを使っているうえに、優美に化粧が施されている。
 コンソールのシフトセレクターが、立派なレバーなのは少し昔風に思えた。最近のクルマは小さなスイッチ式が多くなりつつある。ステアリングには操作感のよいパドルスイッチがあり、MT操作はそちらでやることになるので、コンソールのセレクターは簡素でよいと思った。
 センターモニターでのナビは、スマホを連動させて使う。今回は、(無精ゆえに)連動させず、ナビなしの試乗となってしまった。
 内装の各部にアンビエントライトが仕込まれており、メーターパネル内の表示とともに、好みの色で光らせることができる。もっとほかにコストを使えば、とも思ったが、この色味がさすがフランスでしゃれているので、夜には、すべての色を試して楽しんでしまった。
 内装の充実には、比較的実質的なルノーが、真剣に世の動向をキャッチアップしていこうとしているのが感じられた。今回は試せなかったが、ADASもかなり充実しているようである。

速度が上がるとしなやかになる足回り

 走り出してまず感じたのは、足が硬めだということ。タイヤの硬さもなくはないと思うが、サスペンションそのものが少し締め上げ気味。ただ車体の剛性もあり、不快な感じはしない。
 シャシーは日産のノートなどと同じ、新しいCMF-Bを使っており、外観は同じに見えても中身は刷新されている。シャシー本体に加えて、サスペンションまわりの剛性も高く、速度が上がって多少大きな入力が入っても乱れず、的確に足が動いているようだ。
 ステアリング剛性も高く感じられた。ステアリングホイール自体は、握りの部分もやや弾力性のあるソフトスキンで、断面形状もよく、非常に良好なフィーリングだ。
 硬めの足も、速度が上がって山間部に入ると、印象が変わって、がぜん、しなやかさが増して、気持ちよくなる。安定感、安心感も高い。とくに上下左右にふられたり、ちょっと乱れたような路面では、その良さが強調される。足の動きが的確で、常に接地性がピタリと保たれているような感触。足つきはややしっとりとした感触で、ルノー特有のものだ。
 速度が上がると良さが目立つのは欧州車らしいが、近年は日本市場に合わせて調整する車種もあるなかで、久々に味わった気もする。
 エンジンは、このクラスでは今や少数派ともいえる4気筒で、排気量は1.3L。スポーツモデルではないし、とくだん気持ちが高ぶることはないが、回すとふつうに4気筒らしい気持ちよさも感じられる。最大出力は131psと、たいした数字ではないが、実際にはけっこう速く感じられる。トルクは240Nmあり、とくにトルクの厚さは常に十分あって走りやすい。
 気になった部分は、ひとつはDCTで、停止からアクセルを踏み込んでの発進時に、唐突につながる傾向があった。また逆にブレーキでは、停止時にカックンとすることがあった。どちらも速度がのれば良好そのもので、とくにブレーキはフィーリングがよかった。そのほか、内装の建て付けなど、かすかな異音があるのが少し気になり、ステアリングホイールにも、微振動が伝わった。個人的にはきらいではないが、ブレーキも鳴いていた。これらは個体差かもしれないが、なんというか“ヨーロッパ車的”のように思った。
 この5世代目ルーテシアには、今まで看板モデルだった高出力仕様の「ルノー・スポール」がない。脱炭素の流れが背景にあるようだ。ただ、この1.3Lは、本国では新しいライトな「ルノー・スポール・ライン」と呼ぶ仕様もあるようで、これだけスポーティーな足回りであれば、それのほうが合っているようにも思う。
 同じフランスの最近のプジョーやシトロエンに比べて、一見エキゾチックな魅力が控えめだが、とくに走りの面でヨーロッパ車らしい特性は持ち合わせており、さすがベストセラーカーの系譜で、かの地での王道のクルマづくりなのではないかと思った次第。

報告/写真:武田隆

最終更新:2022/04/12