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ステランティス グループがプロデュースする「フィアット」ブランドから、久しぶりのニューモデル「600e(セイチェント・イー)」が日本に導入されたので、さっそく試乗してみた。
「フィアット」ブランド久々のニューモデルは100%BEVのコンパクトSUV
日本市場においても、フィアットをはじめ、プジョー、シトロエン、DS、アルファロメオ、アバルト、そしてジープと7つのブランドを展開するステランティス グループ。そのいずれにおいても電動化を進めているが、必ずしも早急なフル電動化を目指しているわけではない。
現段階では、ICE(内燃機関、主にガソリンエンジン)、PHV(プラグインハイブリッド車)、BEV(バッテリー電気自動車)といったさまざまなパワートレーンを、ユーザーのライフスタイルに合わせて選択してもらうという。選ぶ楽しみを強化していくことを、ステランティス グループ最大の強みとしているようだ。
そんなステランティス グループから、フィアット ブランドとしては昨夏に発表されたMPVのドブロ以来のニューモデルとして日本デビューを果たしたのが、この600eだ。正しくは「セイチェント・イー」と読むのだが、どうも「ろっぴゃく いー」と呼んでしまうのは、そのほうが呼びやすいからだろうか。
既に日本には2022年から500e(チンクェチェント・イー)というコンパクトBEVが導入されており、600eは車名からして500eの兄貴分(いや、スタイルの可愛さから言えばお姉さんか)にあたるモデルとなる。つまり、500eの可愛さを引き継ぎ、また1955年に発売された初代「600」をインスパイアした、100%BEVのコンパクトSUVだ。
しかも、500eよりアップしたサイズで居住性や使い勝手を高め、より多くのワクワクが味わえる。ステランティス ジャパンの打越社長によれば「未来のステランティスをリードするクルマ」だという。
デザインが可愛いだけのクルマではない。居住性も高い
日本仕様の600eは、イタリア語で「最初」を意味する「ラ・プリマ」のモノグレード。全長は4.2m、全幅は1.8m足らずのコンパクトで扱いやすいサイズだが、SUVゆえ車高は1.6m近くあり、タワーパーキングへの駐車は微妙かもしれない。
とはいえ、このクルマの最大のセリングポイントは、その可愛らしいスタイリングにあるだろう。丸みのあるフォルムに、500eとも似た人なつっこい顔つきで、まぶたが付いた目のようなLEDヘッドランプが愛らしい。
しかも、3ドアハッチバックでリアシートの居住性は今ひとつだった500eに対し、600eは5ドア。乗り降りのアクセスしやすさはもちろん、リアシートのヘッド&フットスペースも十分。おとな2人で座っても長距離走行は快適に過ごせるだろう。ラゲッジスペースも360Lと同クラスのライバルたちより広く、センターコンソールにも15Lのスペースがある。
イタリア語で「甘い生活」を意味する「ドルチェ・ヴィータ」をコンセプトとしたインテリアは、シンプルだがオシャレだ。丸型メーターや2スポークのステアリングホイールは、初代600をインスパイアしている。アイボリーを基調として、エコレザーのシートはFIATロゴのエンボスやターコイズブルーのステッチがアクセントに入れられているのもオシャレだ。
運転席は電動アジャスト、7インチのカラーTFTディスプレイや10.25インチのタッチディスプレイ(オーディオ&カーナビゲーション内蔵)といった快適装備から、レーンポジションアシストやアダプティブクルーズコントロール(ACC)といった安全装備も充実している。
走りのレベルに不満はない。デザインが好きならば、オススメしたい
前置きが長くなってしまったが、そろそろ走り出そう。パワートレーンは、最高出力115kW(160ps)と最大トルク270Nmを発生する電気モーターをフロントに搭載して前輪を駆動する。車両重量は1580kgとBEVとしては意外と重くないが、走り出してみるとそれなりにどっしり感はある。
ハイパワーEVのようなドッカンパワーによるロケット加速を発揮することはないが、それでも加速はスムーズで軽く、アクセルペダルを少し踏み込めばけっこうな勢いで加速してくれる。BEVゆえ、市街地でも高速道路でも走行音はきわめて静か。むしろタイヤノイズが気になるくらいだ。
今回は市街地と高速道路のみで短時間の試乗なので、ワインディングロードなどは走っていない。それでも低重心なBEVらしい安定感のある走りを味わえた。足まわりは、それなりにゴツゴツ感はあるものの不快なレベルではない。直進安定性は高く、精度のいいACCを使えば高速走行は加減速もスムーズでリラックスして快適に過ごせる。
電動パワステは少し人工的なフィールだが、慣れてしまえば気にならないレベルにある。モニターが表示した電費は、市街地走行なら6km/kWh前後、高速走行では8km/kWhくらいだったから、悪くない数値だ。
フィアット 600eは、走りを云々するクルマではないだろう。もちろん、走りのフィールに不満はないが、このクルマならではの「走りのサムシング」は感じられない。もっとも、それはこのクラスのBEV(とくにSUV系)に共通している点なのだが。
このデザインが気に入って、BEVと暮らせるインフラ環境が整っていて、予算的にも問題なければ、BセグメントのコンパクトSUVとしては使い勝手は高いし、これ1台で暮らすことも十分に可能だろう。フィアット 600eが気になっている人は、まずは実車を見て、試乗してみることをオススメしたい。
(報告/写真:篠原 政明)
■ フィアット 600e ラ・プリマ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4200×1780×1595mm
●ホイールベース:2560mm
●車両重量:1580kg
●モーター:交流同期電動機
●最高出力:115kW(160ps)/4070ー7500rpm
●最大トルク:270Nm/500−4060rpm
●バッテリー総電力量:54.06kWh
●WLTCモード航続距離:493km
●駆動方式:FWD
●タイヤサイズ:215/55R18
●車両価格(税込):585万円