
写真右のマッシブグレーボディが「RS」グレードのPHEVモデルで、システム最大で225kW(306PS)を発生。左のプレシャスブラウンボディが「Z」グレードのHEVモデルで、システム最大で179kW(243PS)を発生する。駆動はいずれもCVTを介する「E-Four」システムだ。
リアシートを倒せば、全長2mの「拡張型完全フルフラットデッキ」が現れる。ラゲッジ先端には遊び心をくすぐる、小型のデッキテーブルと引き出し式デッキチェアを組み込んでいる(RSに標準、Zはオプション扱い)。
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「クロスオーバー」「スポーツ」「セダン」に続いて登場したのが、新型クラウンの第4弾となる「エステート」だ。16代目となるクラウンの発表時には、すでに“4兄弟“の全部が紹介されていて、前記の3台がそれほど時間を置くことなく順次デビューを果たしていたのに対して、エステートの市場投入は遅れに遅れた。2024年に発生した一連の認証不正問題が直接の原因であるのだろうが、トヨタでは「さらなる車両の作り込み」に時間をかけたと説明している。
エステートが発売されたのが、2025年の3月。日本の伝統である落語に例えると最後に登場するのが真打ちで、文字通り、クラウンの真打らしい仕上がりになっているのか?富士スピードウェイのショートコースで約2時間、貸切りで乗り回すことができたので、その走りや使い勝手のインプレッションをお届けする。
PHEVとHEVのパワートレーン
搭載するパワートレーンは2つ。2台並んだ写真右の「マッシブグレー」ボディが「RS」グレードのPHEVモデルで、2.5L直4エンジンは最高出力130kW(177PS)/6000rpm、最大トルク218Nm/3600rpm、フロントモーターが同134kw(182PS)/270Nm、リアモーターが40kW(54PS)/121Nmをそれぞれ発生し、システム最大で225kW(306PS)を発生。EV走行可能距離は89km(WLTCモード)で、燃料消費率は20.0km/L。
左の「プレシャスブロンズ」ボディが「Z」グレードのHEVで、2.5L直エンジンの最高出力140kW(190PS)/6000rpm、最大トルク236Nm/4300〜4500rpm、フロントとリアのモーター出力、トルクはPHEVと同じで、システム最大は179kW(243PS)となる。燃料消費率は20.3km/L(WLTCモード)。いずれもCVTを介して四輪を駆動するFFベースのE-Four方式で、車重はPHEVが2080kg、HEVが1900kgだ。
エクステリアと工夫ありのインテリア
エステートのボディサイズは全長4930mm、全幅1880mm、全高1620mm、ホイールベース2850mm。全長は「クロスオーバー」と同じで、幅は「スポーツ」と同じ40mmワイドに、高さは4兄弟で一番高いという堂々たるもので、ルーフを後方までまっすぐ伸ばすことでステーションワゴンとSUVのいいとこ取りをした形状。開発コンセプトの「大人のアクティブキャビン」を体現した、上質さや洗練、余裕を忘れないクラウンらしい仕上がりだ。顔つきのイメージは新型クラウン共通のもので、誰もがクラウンであることがわかるのだが、ボディ同色でグラデーションを施したフロントグリルのワイド感と迫力が、他との差別化となっている。
一方のインテリアは、これまでのクラウンと共通の水平基調のもので、上質で殊更高級感を煽っていないところが好ましいところ。運転席に座る限りではすぐにエステートであることはわからない。後席は、足元も頭上空間も空間がたっぷりとあり、全く問題なし。
ラゲッジルームはエステートの本領発揮部分で、容量は通常で570L、後席を倒せば1470Lとなる。面白いのは、トヨタではこの空間を「拡張型完全フルフラットデッキ」と呼んでいる点で、座席を倒した際に前席との間にできる隙間を埋めるべく「ラゲッジルーム拡張ボード」(対荷重は20kg)を後席背もたれの裏側に格納していて、それをパタリと開くことで文字通り凹凸がない全長2mもの空間が出現するのだ。
開発を担当したMS統括部製品企画の本間裕二ZS主査は「拡張ボードを取り付けたことで、大人の方でも背を伸ばして寝転べるほどの空間ができました。毛並みが細く上質なカーペットを敷き詰めているので、お客様の大切な趣味の道具やアウトドアグッズ、楽器などを安心して積み込むことができます」という。これとともに、ラゲッジ先端部には小型のデッキテーブルとデッキチェアを組み込んで、旅先でのくつろぎの空間を演出できるようにしているという徹底ぶり。どちらもともすれば軽のハイトワゴンなどで見られそうな装備だが、クラウンがやるとなるとどれも上質な仕上げになっていて、感心することしきりである。
どっしりと走るが、軽快感もあり
撮影が終わったころ、ショートコースには小雨が降り始め、路面はハーフウェットになってしまった。まずはPHEVでコースに侵入。「スポーツ」モードでの300PSオーバーは、大きなボディに対して必要十分以上といったパワー感を発揮。コース中央にあるゆるい右コーナーを上りつつその先にある平らな左コーナーや、ストレートエンドのS字を抜けた上り坂の先にある急な左コーナーなどアンダーステアが出そうな場面では、E-FourとAVS、DRSが協調して効果を発揮し、四輪の接地感を失うことなく上手に鼻先が向きを変えてくれる。そのストレートでは120km/hあたりまでスピードを上げてもステアリングがどっしりと座っていて、安定感は抜群。濡れた路面でのフルブーキングでも姿勢の乱れがなく、安心して減速してコーナーに飛び込めた。
一方、「REAR COMFORT」モードにしてみると、路面との当たりが穏やかになるもののコーナーやブレーキングでは車体が常にフラットに保たれていて、操縦性がそれほど悪化しない点に驚かされた。
もう1台のHEVは、PHEVに比べて足回りやパワーで一歩譲る点があるため、どうか、と思っていたのだが、いざ走ってみるとその不安は全くなし。クロスオーバーより強力になったモーターによって活発な走りを見せてくれ、乗り心地や静粛性の部分でもネガなところは見つからない。
トヨタ凄腕技能養成部の「匠」である片山智之グランドエキスパートによると、「エステートではまずストレートスタビリティを意識して開発しました。新東名など、80~120km/hで走る高速道路で、まっすぐ、どっしり、ズドンと走ることにこだわっています。一方で、DRS(リアステアリング)やAVS、ブレーキなどとの協調制御によって、ワインディングなどでのコーナリング性能も両立させています」とのこと。片山氏の感性が注ぎ込まれたエステートの走りは、相当レベルが高いところにあるように感じた。
お伝えしてきたように、エステートがもつ全方位性は、新型クラウンの“真打ち”と呼んで良いのではないだろうか。ちなみに価格はPHEVのエステートRSが810万円、HEVのZ が635万円だ。(了)
報告・写真:石原彰









