スバルBRZ

久々にドライビングが楽しいスポーツ車の登場



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●車両概要
 スバルBRZはトヨタ自動車とスバル(富士重工業)のコラボレーションで開発されたクルマである。企画がトヨタだが、実際の開発はスバルが担当したので、基本的にはスバルの技術で開発されたが、検討から仕上げまでトヨタの技術者を交えて行なわれたので、もちろん、セッティングの煮詰めなどほとんどの項目にトヨタの色が入って仕上げられているという。

 エンジンはトヨタの直噴技術である「D-4S」を使って水平対抗としてスバルが新開発した。このD-4Sの起源は三菱の直噴エンジン「GDI」の直後に、やはり希薄燃焼を狙った直噴として登場したD-4エンジンだ。ただ、GDI同様これは結果的にうまくいかず直噴にポート噴射を加えてストイキ(理論混合比)燃焼のエンジンとして発展させたのがD-4Sエンジンといえる。
 
直噴+ポート噴射という独特の機構のD-4Sを、FRスポーツ車用の水平対抗エンジンとして開発するに当たり、ボア・ストロークはスクエアとしている。最近は燃費や環境を狙ってロングストロークが多いが、スポーツ性を狙えばショートストロークの方向にいく。その両立としてボア・ストロークは86×86mmのスクエアとなった。

 このBRZはパッケージとして低重心化を狙っており、各所にその工夫のあとが見られるが、もともと低重心の水平対抗エンジンはその筆頭といえる。そのメリットをさらに高めるべくインテークとエキゾーストのマニホールドの取り回しも高さを抑えるように工夫されている。したがって一定のロードクリアランスを保ちながらボンネットフードも低く全高も低い。当然前面投影面積も小さくなるし、空力を考えたボディ形状はCd値(抵抗係数)を0.27と非常に低い値に抑えている。空力についてはボディ形状やリアスポイラーだけでなく、フロア下をフラット化し流れを整流するよう工夫されている。

 サスペンションはフロントがマクファーソンストラットとオーソドックスだが、低いフードの実現のためにストラットのマウント位置をやや内側にして下げている。リアは接地性に優れスポーツ性の高いダブルウィッシュボーンを採用している。

●インプレッション 
 車両に乗り込むと、スポーツ車らしく着座位置が低いのがまず印象的だ。足が奥に入りコクピットにすっぽりと身体が収まる感じは、まさにスポーツ車を感じさせる。最初は指定されたもてぎの一般外周路をAT車で2周ほど走り、その感触を楽しむ。その後16インチタイヤと17インチのMT車でそれぞれサーキットのショートコースとオーバルを組み合わせたコースを3周ずつ+αを走る。

 まずエンジンはさすが7000rpmで最大出力を出すエンジンらしく軽快に吹け上がる。低速域でもトルクがあるが、踏んでいくと力強くグングン回転が上がっていく。それはモーターのような直線的な上がり方で、山のあるトルク感ではない。これについては好き嫌いがあるかもしれないが、トルクの山を選んでシフトをするというのも、もはや古典的なのだろう。後でトルク曲線を見て納得したが、通常の山形でなく、2000rpmあたりにひとつ山があり、さらに4800〜6000rpmまでほぼフラットなトルクを出している。NAながらこれほどフラットなトルクを広い回転域で発揮するというのは、吸排気ともバルブ開閉時期をコントロールするAVCSと、直噴に加え低速域を上手くカバーするポート噴射の併用によるものかと納得する。

 操縦性に関しては、回頭性が非常によくステアリングに応じて機敏に向きを変えてくれる。ボディ剛性とステアリング剛性もしっかり出ていると感じる。トランスミッションなどの質量のあるものを、なるべく重心に近づけていることも効いているのだろう。

 ブレーキフィーリングもスバルとトヨタでは温度差があった項目だそうだが、トヨタの意見が入って柔らかめだ。しかし、ヒールアンドトーが踏みにくくなるほど軽いわけではなく、サーキットだけでなく通常走行でも充分それが使える。シフトフィーリングも気を使ったところだそうだが、柔らかい中にも節度はあって気持ちよくシフトできる。

 ただ、気になったのはVSCの効かせ方だ。オーバルコースで130〜140km/h位だと思うが(指定では120km/hとなっていました。ゴメン)あえてテールを振り出すように大きくステアをしてみたら、VSCが効いてそれを抑えるのだが、その効き方が急で逆への振り戻しで蛇行する不安定さが出てしまった。次に17インチ車で同様に試したら、挙動変化はそう急ではなく、不安感はあまり感じずにすんだ。両方とも姿勢制御だけでスロットル制御はしないモードであったが、その違いはタイヤの差だけでなく、LSDの有無の差も出たのかもしれない。いずれにしろ、スタビリティーコントロールの効かせ方は更なる煮詰めが欲しいと感じた。なお、VSCはモードがいろいろあり、エンジン回転を絞るかどうかも選べるし、簡単にオフもできる。これはモータースポーツに使うには喜ばしい設定だ。

 パイロンコース部分で荷重移動させながらサイドブレーキを引いたら、きっちりテールを振り出してくれた。リアブレーキはドラム付きディスクで、しっかり効いてくれる。これなら、その回頭性のよさとともにノーマルのままジムカーナに出ても楽しめる、そう感じた。

 問題は価格だが、車格からいえばリーズナブルなのかもしれないが、多くの人に楽しんでもらうにはちょっと高めだ。トヨタの考えとしては5年先の中古車市場での価格に期待をしているようだが、個人的にはもっと小ぶりでよいから低価格な車両にして欲しかった、というのが本音だ。しかし、久々に楽しいクルマが出てきたことは喜ばしいことだ。

(写真:SUBARU/飯塚昭三)

最終更新:2012/03/07