ジャガーFタイプクーペ

ジャガーFタイプクーペは3リッターSが絶対おススメ



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「う〜ん、それは設計図通りにできたということじゃないかな」
イギリスで行われた先々代XJの試乗会で「明らかにマイチェン以前のモデルよりも良くなっている。どこを改善したのですか」というぼくの質問に対して本社開発担当役員はしばらく考えた後で、こう答えた。ちょっと驚いた。でも、たぶん本当にそういうことだったのだろう。このころの輸入車は、一部の高評価とは別に実はバラツキが大きかった。
 当時、ぼくはジャガーのXJに乗っていた。ただ、このクルマ、噂どおりに頻繁に壊れた。大した部分でなければ放っておくのだけど、ブレーキのアクチュエーターだったり、ステアリングのギアボックスだったりするからそうもゆかない。そのたびにン十万円単位のお金が飛んで行った。今なら最初のトラブルでギブアップだけど、バブルの香りがかすかに残っていた90年代の中ごろはそれほどの負担でもなかった。
 高級車を安く作ることからスタートしたジャガーだが、英国高級車の代名詞としての名声はとっくに確立していた。その後、フォードの傘下に入ったり(モンディオ・ベースの鶸タイプ、リンカーンLSベースのSタイプを市販)、現在のようにインドのタタの傘下になるなど紆余曲折はあったが、品質は確実に進歩した。ただ、先代のXJはアルミを多用して軽量化を図ったが、その分重厚さを失っていてぼくは少しも欲しいとは思わなかった。
 さて、今回の“F”タイプ。これは、1961年から75年まで販売されたピュア・スポーツカー・Eタイプの後継車であることをアピールする。スポーツならXKでいいじゃないかという声もあるかもしれないが、それは違う。XKはあくまでも2+2シーターのラグジュアリースポーツでありFタイプは2シーターの本格的スポーツだ、というのがジャガーの説明。となれば、このスポーツはさぞかし乗り心地や操作もハードだろう……。

伝統を巧みに磨く。新しい時代のスポーツカーと言えそうだ

Fタイプは日本ではコンバーチブルがすでに発売されており、今回はそのクーペモデルの導入だ。エンジンは3種類。3リッター鶩6スーパーチャージャー付きが340馬力と380馬力(S)の2バージョン。さらに550馬力の5リッター鶩8(R)が用意される。
 最初に乗ったのは試乗車の都合で3リッターのS(380馬力)。その濃いオレンジのボディカラーに少々気はずかしさを覚えた。ジャガーっぽくないじゃん、というのがその理由。ギアはダイヤル式ではなく、通常のシティックシフト(8速)。この方がスポーツ気分は高い。Pはシフト最上段のボタンを押す。装着タイヤはオプションの20インチ。低い最低地上高に注意しながらともかく走りだす。すると、この派手な出で立ちのFタイプSはその外観を裏切るほど滑らかに走りだした。
 もちろんフルスロットルを与えれば十分すぎる加速性能を見せる。しかもその加速はペダルの踏み代に対して実に自然だ。スーパーチャージャー付きだから低速からコントロールしやすい。ハンドリングもそう。前後の重量配分が50:50ということを差し置いても、極めてナチュラルだ。コーナーでは軽いロールを伴いながらだかく操舵量に忠実に方向を変えてゆく。ステアリング・ギアはややクイックだが、これも違和感はまったくない。しかも最小回転半径は5.2m。比較的大柄なボディのわりには小回りがきく。これもジャガーとしては珍しい。
乗り心地は予想よりはるかに良かった。つっぱったところがほとんどない。しかも路面の状況をしっかり伝えてくる。操縦性、乗り心地ともにずっと繊細になっているのに、全体の印象としてはおっとりしたところがある。つまり、先々代XJの味を維持したま進化しているのだ。初めて乗るのに、ぼくの体感にすごく馴染むジャガーだった。
 これに比べると、V8は速いには速いが時にガサツさが顔をのぞかせる。V8大好きなアメリカ市場のことを考えれば何の不思議もない選択だし、嘘か本当かポルシェを意識しているとすればその存在を否定はしない。でも、このご時世でもV8かよ、という疑問は残る。それに、シフトスティック横のスイッチでダイナミックモードを選ぶと、エンジンレスポンスだけでなく、エキゾースト音も変わる。ポン、ポンとバックファイアーまでする。それをスポーティな味付けと言うのは分からないでもないが、なにせうるさい。やり過ぎ。
 もうひとつ意外だったこと。それは340馬力のFタイプの落ち着きのなさだ。極端に言うと跳ねるような感じ。380馬力は間違いなくすばらしい新「猫足」だが、こちらは「兎足」かも。タイヤは18インチだけど、必ずしもそのせいだけではない。サスペンションの味付けそのものにも課題がある。試しに同じ340馬力のXJにも乗ってみたが、こちらは340馬力Fタイプとは比較にならないくらいしっとりしていた。
 で、結論。ぼくなら絶対380馬力のFタイプS(1029万円)を選ぶ。安い340馬力のFタイプ(823万円)はいらない。V8のR(1286万円)は、そのうちにね、というところかな。
撮影:佐久間 健

<神谷 龍彦> 最終更新:2014/08/14