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妥協のない走る歓びをもう一度と、ミッドシップ・レイアウト、四輪独立懸架、ハイテン(高張力鋼板)を多用した低歪率ボディなど、ホンダが持つ技術を惜しげも無く注ぎ込んだ軽自動車サイズのスポーツカーだ。かつてのトヨタMR2、ホンダNSXなどにも通じるオープンスタイルのその姿はスポーツカーそのもの。軽でもこんなクルマが作れるのか!と一見すると期待が高まる。
搭載するエンジンは660cc・DOHCターボのS07A。最高出力の47KWは6000回転で発生し、最大トルクの104N・mは2600回転で発生する。DOHCと過給器の良いとこを両立させたスペックを見せている。重量は850〜830kgだ。
着座するとその位置はかなり低く設定され、ヒップポイントは車体重心上にあるという。自分の身体を中心に、意のままにクルマが旋回しているような感覚を楽しめるわけだ。走りだして見るとオープンであるのにも関わらず、ボディはがっしりとしていて高い剛性感を実感できる。低重心設計が意図され、路面に吸い付き蹴り上げながら走るような感覚は実にスポーツ・ライクで愉快。足回りはしなやかというより、かなり堅め。
試乗したコースが都心部に限られ、エンジンの高回転域での特性を体感することは出来なかったが、市街地走行だけで見れば明らかに高回転指向のセッテイングで扱い良いとは言えない。ベースになるDOHCも常用域となる2000回転前後では力強さがなく、フツーに感じる。2500〜3500回転になると過給器が効果を発揮するが、なめらかさを加味してもらうのではなく、ただ速さを追求しているように思える。恐らく、高回転域に達しても驚くほど速くはないはずだ。軽の規格である以上は、スポーツカーであってもポテンシャルは限られる。カンペキを求めるのは無粋というものだろう。
残念なのは、実用性を無視した室内のパッケージングだ。フロント側のボンネット部を含めて、携行のバッグを置く場所がどこにもない。これでは事実上ふたりで乗車することは出来ない。ロードスターとして割り切ったという気持ちは分かるが、このようなクルマであっても最低限の実用性は確保して欲しい。そのくせ、快適・豪華装備は充実している。
ひとりで運転することを前提に、マニュアル仕様を選んで飼いならしながら楽しむ志向のものなのだろう。軽の規格だけに価格も標準的な範囲なのは魅力だ。しかし、仮にオープンカーのような個性を追求するのにしても、際立ったものよりも「ちょっと面白い」といった範囲のほうが好感を持てるように思える。ただし、限られた規格のなかで高水準なスポーツ・ミニを実現しようとしたホンダの心意気は評価できるし、それがホンダらしさだということも理解しているが‥。
撮影:佐久間 健