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アルトワークスと言えば、過去には全日本ラリーや全日本ダートラなど、国内のグラベルモータースポーツで活躍したKカーだ。当時を知るモータースポーツファンにとっては忘れられない車種だろう。
1987年にアルトの派生モデルとして初登場したアルトワークスは、当時の軽規格である550CCエンジンだったにも関わらずインタークーラーターボが採用され、当時の軽自動車としては破格の64馬力を発生。さらにプロペラシャフトにビスカスカップリングを組み込んだフルタイム4WD方式が採用され、普通乗用車を凌ぐポテンシャルを持つKカーとして注目された。
だが、その後2000年代に入るとエコカー主流の時代となり、過激な性能を持つ車種は次々と姿を消し、アルトワークスも同じ運命をたどることとなる。2004年を最後にワークスの名は消えることとなった。だが、そのアルトワークスが再びよみがえることとなった。
筆者の個人的な情報で恐縮だが、当時のアルトワークスが全盛だった時代は、筆者はダイハツのミラX4(クロスフォー)で全日本ラリーAクラスを戦っていたが、常にアルトワークスに苦渋を舐めさせられていた。そんな宿敵でもあるアルトワークスが復活したとなれば、これは放っておけない。さっそく試乗させてもらうことにした。
新生アルトワークスはその名に恥じないポテンシャルを秘めていた。エンジンパワーは軽自動車とは思えないほどのパワーを発揮してくれる。試乗は上りのワインディングでも行なったが、加速力は実に小気味良い。
2ペダルのRSでは不満だったシフト時ラグが一掃された。
ターボチャージャーはターボラグを抑える高レスポンス性を追求したもので、エネルギーロスを抑えてスムーズに加給するコンプレッサー翼形状を採用し、排気経路面積を最適化してタービン室内のガス流速を高めることで低速からの高いトルク発生を実現。また、シリンダー内に均一な混合気を発生させる高タンブル吸気ポートを採用することで燃焼効率も高めたそうだが、まさにそんな性能を体感することができた。特に4000回転あたりの中速域でのトルク感は「モリモリ」という表現が当てはまるような加速力だった。
だが、アルトワークスの最大の特徴は、やはりマニュアルミッションが搭載されたことだろう。正直言うと、これまでの2ペダルのRSではシフト時のレスポンスの悪さを感じてしまったが、マニュアル車ではそんな心配はない。今回搭載されたミッションは新たに開発されたものだが、スズキとしても「操る愉しさ」を追求したと言っているとおりのミッションに仕上がっていると思う。
メーカーではギア比をクロス化したと言っているが、ラリーをたしなんでいる身としては、ギア比はまだワイドだと感じた。もっとも、シフトアップすれば4000回転あたりでつながるので、十分にトルクバンドには入るし、一般走行では十分なギア比かもしれない。
だが、何より好感を持てたのはシフトフィールだ。シフトリンケージはワイヤーを採用しているのだが、専用設計のショートストロークタイプを採用しており、シフトチェンジをするのが楽しくなるほど。ワイヤーなのでシフトレバーの剛性やストロークを高めることが可能になったのだろう。陳腐な表現で恐縮だが「スコスコ入る」というイメージだ。
LSDとフットレストが欲しい。やはりマニュアルはいい!
肝心なサスペンション性能も、KYB製の専用チューンを施したダンパーが採用され、ワインディングでは十分なロードホールディングを実現している。タイヤは165/55-15を採用しているが、通常のコーナリングでは十分なロードホールディングを実現している。ボディ剛性も十分だし、条件によっては、同じスズキのスポーツモデルであるスイフトスポーツとも互角の走りを披露することができるかもしれないと感じた。
スプリングレートは従来のRSと同様で、ダンパーの減衰特性を専用チューンしたとのこと。特に減衰の初期特性の立ち上がりを強くしたそうだが、スズキ社内でもスイフトスポーツの走りをベンチマークとして開発しているというから、アルトワークスの走りは十分にスイフトスポーツを食えるのではないだろうか。
ただし、不満に感じたのはLSDの装備がないこと。通常の一般走行ではLSDがなくてもいいだろうが、スポーツ走行するにはぜひともLSDは欲しかった。また、些細なことかもしれないが、もうひとつ不満に感じたのはフットレストがないこと。メーカーではフットレストを装備すると、クラッチを踏んだ際にフットレストに左足が引っかかる恐れがあるため採用しなかったと語っていたが、やはりコーナリング中は左足の置き場は欲しい。
だが、やはりマニュアル車はいい。最近ではAT車の普及が凄まじいが、ペダルの踏み違えによる事故などは、マニュアル車ならあり得ないだろう。「昭和の考え」とも言われようが、マニュアル車の良さを実感させてくれるクルマに違いない。