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最近は「選択と集中」という言葉をよく聞くが、自動車メーカーの車両開発にも当てはまる。近年では環境性能の要求が高まり、排出ガスの浄化に加えて二酸化炭素の排出量も減らさねばならない。プラグインハイブリッドなどの電動化も急務だ。その一方で開発の費用と時間には限りがあるから、合理化を図る必要が生じた。
そこで各メーカーとも、車両の土台に相当するプラットフォームを刷新している。モーターの搭載を含めた多種類のパワートレーンに対応しながら、ひとつのプラットフォームをサイズの異なる車種に使えるようにした。
このような事情に基づいて開発されたのが上級SUVのボルボXC90だ。プラットフォームは「SPA」、エンジンを含めたパワートレーンは「Drive-E」として刷新させた。
注目されるのはエンジンで、直列4気筒の2リッターをベースにしたガソリンターボ、ターボ&スーパーチャージャー、プラグインハイブリッドを用意する。欧州にはディーゼルターボもあり、これも2リッターだ。
つまり「SPA」プラットフォームは、2リッターを超えるエンジンの搭載は想定していない。思い切りのよい合理化を図った。
メリットとデメリットは両極端だろう。V型の6気筒や8気筒エンジンを開発する必要がない代わりに、2リッターエンジンを高級車にも搭載せねばならない。果たして大排気量に匹敵する動力性能と上質な運転感覚を味わえるのか。
XC90は全長が4950mm、全幅が1960mm(T5・AWDモメンタムのみ1930mm)という大柄なボディを備える。軽量化したとはいえ、車両重量は2トンを超える。
試乗したグレードは上級のインスクリプションで、直列4気筒の2リッターエンジンにスーパーチャージャーとターボを装着。低/中回転域では2つの過給器を使い、3500回転を超えるとスーパーチャージャーのクラッチが切れてターボのみの過給になる。最高出力は320馬力(5700回転)、最大トルクは40.8kg-m(2200〜5400回転)だから、動力性能はノーマルガソリンエンジンの4リッター並みだ。
これで十分、過給機付き4気筒。V6やV8は不要?
発進直後の1500〜2000回転では、スーパーチャージャーのノイズを若干感じるが、実用回転域の駆動力は高い。シングルターボと違って、1500回転を下まわる領域でも駆動力が低下しにくい。
3500回転に達してスーパーチャージャーの作動がカットされた時も、回転上昇に違和感はなく滑らかさが保たれる。同じエンジンを搭載したS60のT6・AWD・Rデザインに比べると、ノイズと振動が小さく3500回転付近から回転上昇が急に鋭くなる特性も抑えた。予備知識がなければ、エンジンが直列4気筒の2リッターだとは気付かないだろう。
操舵感は大柄なSUVでありながら、小さな舵角から正確に反応する。カーブを少しスポーティに曲がると、LサイズSUVとしては機敏に向きが変わり、重心の高さやボディの重さを意識させない。走行安定性にも不満はなく、危険を回避する能力も十分に確保される。
ちなみに試乗車にはメーカーオプションの電子制御式エアサスペンションが装着されていた。コンフォートモードを選ぶと乗り心地はとても快適だ。路上の細かなデコボコを伝えにくく、大きな段差を乗り越えた時もしっかりと吸収する。走行モードをダイナミックに切り替えると、操舵感がさらに機敏になって乗り心地も硬めになるが、粗さは感じない。
総じて足まわりが柔軟に伸縮する上級SUVらしい乗り心地と、ワゴン感覚の走行安定性を両立させた。
安全装備は従来以上に充実しており、内装の仕上げも上質だ。今までのボルボはVW(フォルクスワーゲン)に近いイメージがあったが、XC90を試乗すると、アウディの水準を目指しているように感じる。特に安全装備はボルボが最先端で、メルセデスベンツと同等か、それ以上の水準だ。
先に述べたスーパーチャージャーの作動領域におけるノイズは、早急に改善されるだろう。そしてVWから普及が始まった小排気量ターボは、いよいよ高級車にまで波及している。もはやV6とかV8といわれても、あまり魅力を感じない。
そのためにこの10年ほどの間で、エンジンの価値観は大きく変わった。次の段階では、軽量化を目的にボディサイズの縮小が始まるかも知れない。今の自動車は安定成長の段階に入ったとされるが、この先も進化を楽しむ余地は十分にありそうだ。
※XC90の安全装備については、RJCホームページ新型車解説「ボルボXC90の項を参照して下さい。