スズキ・バレーノ/神谷龍彦

突出したところがないのが大きな美点。

こちらは新開発の1.0リッター3気筒ターボ。トルクの出方が自然で扱いやすい。後席も意識したというだけに乗り心地もいい。不自然さなし。

突出性能を求めなければ、これほど親しみやすい仲間は少ない。ちょっと地味だけど、優しいし、性格もいい。同じクラスのマドンナ?

こちら1.2リッター。トランスミッションはCVT。豪華じゃないけどプアでもない。全幅は1745㎜。3ナンバーだけど大き過ぎない。


リアのルーフスポイラーはXTもXGも標準装備。後席の居住性はまずまず。トランクは320リッター、これもBセグメントとしては標準的。

1.0新開発3気筒は最大トルクバンドが広くて扱いやすい。フル加速時には1.2より音振が少し多い。3気筒を感じさせるのはこの時ぐらいだ。

デザインは好みの要素が多いが、小型車としては少しそっけない印象を受けた。クオリティ的には合格レベルだ。ナビは販売店オプション。


※画像クリックで拡大表示します。

よくできたファミリーカーである。で、ファミリーカーに必要な要素とは何なのだろう。
まず乗り心地がいいこと。ドライバーの快感は同乗者にとっては不快なことも多い。
適度にパワフル&トルクフルであること。過度ではない余裕はいつだって欲しい。 
ユーティリティが高いこと。同乗者も含めた乗員にとって使いやすさは大切だ。
まずまずの居住空間を持っていること。ギュウギュウ詰めはやっぱり快適じゃない。
サイズ的にも扱いやすいこと。極端に小さいサイズや大きいのは何かと気を使う。
そしてこれらのバランスがほどよく取れていること。実はこれが一番難しい。ついガンバリ過ぎたり、結果的にちょっと気が抜けたり。高度な凡庸は欠かせない。
バレーノは、以上すべての面で合格点だ。とくに速くはないがそれだけに安心感が高い。

使い勝手や操安性は実に統一がとれている。ファミリーカーとしてみれば……。

 バレーノの特徴のひとつは新しいBセグメント用プラットフォームを採用したこと。そのせいだけではないが、ともかく軽い。1.2リッター4気筒(91馬力)は910kg。新開発の1リッター直噴3気筒(115馬力)でも950kgに抑えている。他のBセグメントライバル(ポロ、デミオなど)がほぼ1000kgを越すことを考えれば、これは圧倒的に有利だ。
 エンジンは1.0がいい。パワーでも1.2凌駕するが、問題はトルク。1.0は低中回転域(1500〜4000rpm)で160Nmを発生する。ここでも軽量化がいきる。
 1.2リッターはすでにソリオなどに採用されている。乗った感じも変わらない。日本から輸出される3気筒の方はターボ出力が自然だ。3気筒のバラバラ感はほとんどない。
 ステアリングもやや軽めだが、比較的ソフトな乗り心地とのバランスがとれている。ただし、1.0の燃費は20.0㎞/ℓと1.2の24.6㎞/ℓには劣る。
 バレーノをファミリーカーというジャンルに押し込めたのは個人的な思い付きだが、今は良質なフツーのクルマが少ない。そうした中では新鮮である。
 ところで、バレーノに関する大きな問題は生産国がインドであるということ。意地悪な目で見れば、インパネのデザインとドアの閉まり音がやや軽いかな。それ以外にはインド(国外産)を感じさせる部分はない。このあたりがタイ産のマーチとはちょっと違う。それなりのチェックはしているようだが、商品としてはOKだ。
 バレーノがスズキの小型車国内10万台計画の一翼を担うことは間違いない。とはいえ、国内年販6000台の予定。日本での話題性はさほど高くはない。しかしインドでの受注は数十万台を超えるという。クルマとしての成功は約束されている。

写真:佐久間健

最終更新:2016/04/10