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ちょいとばかり走りに自信のある新型車の試乗会は、ちかごろ、御殿場周辺を基地にすることが多い。2年連続、RJCの「イヤーカー」グランプリを受賞している注目の元気印SUZUKIが、5速MTが売り物のアルトWORKSにつづいて、ハッチバックのBALENOでも、同じステージを用意してきたのには、正直、驚いた。ま、とやかく言う前に、乗ってみてよ、という姿勢か。
バレーノ……「閃光」という意味のイタリア語。競争激甚のコンパクトカー市場においてキラリと光る存在になって欲しいという願いをこめた、という。
「日本で開発し、ヨーロッパで細やかなチューニングやテストを行った上で、最新の設備を揃えたマルチ・スズキ・インディア社マネサール工場で、スズキの品質基準に基づいて製造、マネサール工場、輸出港であるムンドラ港、日本の湖西工場のそれぞれで徹底した品質チェックを行い、日本のみなさまにお届けします」
つまりSUZUKI期待の『帰国子女』である。車種はふたつ。XTとXG。パワートレインは1.0ℓ直噴ターボのブースタージェット・エンジンと6速ATの組み合わせ、1.2ℓ自然吸気のデュアルジェットエンジンとCVTの組み合わせの2種類。それを軽量、高剛性化した新開発のプラットホームに搭載したという。
真っ先に3気筒ターボのXTを選んで飛び出した。箱根裏街道と呼ばれるR138を乙女峠方面へ。最初の三叉路のぶつかったところで、右手の林間ワイディングへ入る。コーナーの数は数えたことがないが、長尾峠の頂きに着く手前の富士見茶屋まで、大小さまざまで80のターンがある。
バレーノとの対話をはじめた。左、山側、右は谷。1車身分がやっとだから、降りてくる対向車の気配も早めに察知しておきたい。目からの情報はすでに過去の映像。常にクリッピング・ポイントの1秒分先に視線を定める楽しさ。霧が出てきて、ライトON。
ステアリングの裏側にセットされたパドルシフトにはすぐに慣れた。2、3、4、ほい3・2。そこでチョンと左足ブレーキング。ペダルの位置が丁度いい。ク、クとフロントが沈み気味になったところで、予想通りにバレーノは踏ん張りながら、しなやかに次のコーナリング態勢を用意してくれる。はい、今度は右足で、アクセルON。わずかなタイムラグが、かえって自然である。
「なかなかだね」この1ℓ3気筒ターボエンジンの「帰国子女」を褒めていると、デビューしたばかりの初代ソアラ(1981年3月)のプレス試乗会で、同じように長尾峠を目指してここを走り、5速MTを3速にホールドしたまま、後半の登りのワインディングを走り終わり、「まるで3速オートマじゃないか!と絶句したあの時の記憶が、なぜか蘇る……わかった。この長尾峠を目指すこのルートが、何一ついじられないまま、残ってくれているからだろう。
よし、このあと、もうひとつの1.2ℓ自然吸気4気筒+CVTを試してやろうじゃないか。それにしてもこの「帰国子女」、つい先ごろ試したデサイジング3気筒ターボの同じハッチバック・ドイツ車に、どこか似たような味がした。お値段は半額近いのに(XT=161.7万円、XG=141.4万円)。