【新車&NEWS】シトロエン・ベルランゴ
カングーファンも大いに気になるだろう

 ヨーロッパの小型MPV(アクティビティビークル)というと日本ではルノー・カングーの一人勝ちだったが、これからはそうもいかなくなるだろう。シトロエン・ベルランゴ(プジョー・リフターなどと兄弟車)のカタログモデルの発売が8月27日から始まったからだ。実際、昨年に2回行われたデビューエディションの予約販売はともに5時間半で完売したという。ユーザーの期待度は間違いなく大きい。

そもそも先に開発されたのはベルランゴだ

 日本でのマーケット展開を見ていると、先にルノーのカングーが売られてシトロエンがベルランゴというライバルを出したという印象を受けるかもしれない。しかし実はその反対だ。1996年7月というベルランゴの登場はカングーのそれよりも1年以上早い。パイオニアとしてのシトロエンのプライド大きいはずだ。
 しかしプライドだけでは勝てない。ヨーロッパでもこの2台はライバル的存在だが(販売台数はやはりカングーの方が多い)、日本でここまでカングーの独走を許したのにはそれなりの理由もある。まず日本側の要望が本社に届きにくかったことではないかと想像する(たとえばオートマの設定など)。それがこの3代目にして初めてできるようになった。
 ボディサイズは全長4405mm×全幅1850mm×全高1850mm。カングーの4280mm×1830mm×1810mmと比べるとかなり長く(125mm)、少しずつ広く(20mm)高い(40mm)。エンジンは1.5リッター・クリーンディーゼルターボ(96kW 300Nm)+EAT8(アイシンAWとの共同開発)で税込価格は312万円〜343万円。対するカングーは1.2リッター・ガソリンターボ(84kW 190Nm)+6速ATで税込価格は254.6万円〜264.7万円。価格格的にはザラッと言うとカングーの方が60万円ほど安い。
 当然、装備はベルランゴの方が上だ。リアシートが3席独立タイプであること、サンルーフの下のスペースに14kgまでのバッグなどを置けるMODUTOP=モジュトップ・パノラミックルーフ(バッグインルーフ=二つの突起で荷物の移動を防ぐ)があること。左右合わせて60kgまでの小物の収納が可能なボックスも後席の上にある。
 ただし、これらの装備はSHINE(338万円)やSHINE EXR PACK(343万円)に標準だが、新たに設定されたベーシックグレードのFEELからは省かれる。FEELのリアシートは3分割式ではなく、よくある6:4の分割可倒式。別にこれでも何ら問題はない!と思う。
 また、SHINEに付くセンターコンソールやリアエアコン・アウトレット、リア床下収納やリアサンブライドなどもない。とはいえ、カングー同様にトノボードの固定位置は2段階(59mmと28mm)、ガラス部分だけ開けることもできるリアゲート(リアオープニングガラスハッチ)など基本装備はFEELで十分だ。さらに言えば先進安全運転サポート機能((ADAS)面でもベルランゴにはカングーに対して一日以上の長がある。

ハードウエアは新しいのにほっこりさせるベルランゴ

   リアドアは左右スライド式。使いやすさの点ではこの形式に軍配があがる。また、日本で販売されているカングーのリアゲートはご存知のように観音開きで、これが一つのウリにもなっている。狭い所では便利だが、使い勝手の面ではいかがかと思う時もある。ベルランゴはこの点はパスしたのかと思ったが、どうやらヨーロッパではカングーの観音開きは人気がないらしい。シトロエンの選択は正しい。
 プラットフォームはベルランゴの方が新しい。ベルランゴはプジョー・シトロエンのEMP2を採用している。対するカングーは2007年の2代目がいまだに現役。ハードウエアはベルランゴの方が完全に1世代以上新しい。EMP2はプジョー・リフターだけなく、傘下になったオペル/ボクスホール(=旧欧州GM)のコンボにも使われている。
 メーター類はアナログ。好みにもよるが個人的にはこの方がしっくりくる。助手席前のダッシュボード上面には大容量グローブボックスが備わり、車検証や取説が放り込めるようになった。収納スペースの多さは間違いなくトップクラス。ラゲッジスペース自体(最大2126リッター)も広い。助手席シートバックを倒せば2.7ⅿの長尺モノも入る。
 ただ、バイワイヤー式のシフトセレクターはダイヤル式で、電動式になったパーキングブレーキなど、運転席まわりはすっきりした。ただ、このダイヤル式レバー、少し慣れを必要とする。
 ベルランゴのカタログモデルの発売を記念して、8月27日から30日、東京・ららぽーと豊洲で記念イベントが開かれた。ここにはの最新モデルに加えてシトロエンが提案するいくつもの使い方を具体的に示したベルランゴが並べられていた。
 このジャンルで我が世の春を思いっきり謳歌し続けていたルノーにとっては強力なライバルの出現だ。しかし悪いことばかりではない。強力なライバルがいてこそ本命も育つ。価格面でのルノー優位は揺るがないのだから。

報告:神谷 龍彦
写真:佐久間 健

サイズはカングーよりやや大きい。とくに全長。ボディサイドのエアバンプは全グレード共通。

リアドアは左右ともスライド式。床はフラットになる。荷物搭載量は最大で2126リッター。

メーターはアナログのスピード(左)とタコ。センターコンソールにダイヤル式の変速レバー。

基本的にはファミリーミニバン。いろいろな使い方ができる。考えるだけでも楽しい。

SHINEのリアシートはフォールド機能付き3座独立タイプ。FEELは6:4分割可倒式。


最終更新日:2020/08/31