スズキ ワゴンR/スティングレー

 

■極めたアイドリングストップ機能

●S-エネチャージ解説

 スズキは8月25日にマイナーチェンジ車として「S-エネチャージ」を装備したワゴンRおよび同スティングレーを発表、発売した。この「S-エネチャージ」は従来の「エネチャージ」をより高度に進化させたもので、その技術については今年(2014年)4月に技術発表していたものだ。それがいよいよ実用使用の段階に至ったわけである。

 S-エネチャージのSはスーパーを表わしているが、ではなにがスーパーか。従来の「エネチャージ」は、減速時にオルタネーターで発電することでエネルギー回生し、その電力を充電していた。このとき小型のリチウムイオンバッテリーを使うことで、充電効率を高めていたのがポイントで、これにより運転中の電装品の作動電力をまかなうようにした。すなわち、オルタネーターで発電するのに減速回生を使い、ほとんどエンジン動力を使わなくてすむようにしたわけである。走行中のエンジンの負担が減るので当然燃費が向上するわけである。

これだけでも燃費向上効果は大きかったが、S-エネチャージではオルタネーターをモーターとしても機能させ、アイドリングストップからの再始動を行なうとともに、加速時にエンジンをアシストするようにした。このオルタネーターは単なる発電機でないので、ISG(インテグレートスタータージェネレーター)と称し、発電能力も約30%向上させている。もちろんそのときのバッテリー残量など、状況によりモーターアシストしないこともあるが、機能としてはハイブリッド車と同じ機能を持ったわけである。

ただし、ISGの出力は1.6 kW(2.2PS)だから、アシストするといってもパワーを体感するレベルのものではない。ISGによるアシストや回生の状況はメーターパネル上に表示されるが、ドライバーはアシストと回生のどちらの作動も全く体感できない。逆にいうと全く違和感がない。これはあくまでも燃費向上の効果を狙ったもので、「知らず知らずのうちに燃費が向上している」という装置と理解するとよい。なお条件が整ったときのアシストは15〜85km/hにおいて最大で6秒間、3秒間休んでまた6秒間アシストということを繰り返す。

ISGは交流発電機・モーターであるからバッテリーとのやり取りには交流⇔直流の変換が必要である。通常のハイブリッド車ではインバーターを別途配置しているが、ISG本体にインバーターを組み込んでいる(プーリーの反対側)。

アイドリングストップからの再始動は鉛バッテリーの電力で行なうが、通常はスターターモーターのピニオンがフライホイールのリングギヤに飛び込んで回すため、機械的な動きが伴い作動音が出る。しかし、ISGによるエンジン再始動はベルト駆動であるから実に静かで滑らかであり、これも大きなメリットになっている。通常のセルモーターによる最始動時のエンジン回転数は300rpm程度だが、ベルト駆動では600〜700回転まで上げることができるという。それにより再始動で500rpmにエンジン回転を上げるのに要する時間も0.3秒と、エネチャージ車の0.4秒より短縮している。

なお、再始動はISGにより行なわれるが、通常のスターターモーターも装備している。それはアイドリングストップからの再始動というのはエンジンが温まっている条件のよい状態であるが、極寒の地での冷え切った状態においてもエンジンが確実に始動するようにしておく必要があるからだ。モーター出力の大きな本格ハイブリッド車は別として、別途スターターモーターを装備するのが普通である。

なお、オルタネーターをこのようにエンジンの再始動と出力のアシストに使う技術は、2012年8月に発売した「日産セレナSハイブリッド」が最初である。スズキでは「ISG」だが日産では「ECOモーター」と呼称している。エンジンが大きいことから出力も1.8kWとわずかに大きい。ただし、セレナは補助のバッテリーはリチウムイオンバッテリーではなく、鉛バッテリーである。

このオルタネーターによる再始動、アシストの技術は日産のほうが先に実用化したが、もちろんスズキもそれより以前からこの開発に取り掛かっていた。4月の技術発表時に将来的にはこれをさらに発展させ、現在33〜34%のエンジンの熱効率を2020年には40%にまで向上させたいとして、スズキ自身この技術に大いに期待していることがうかがえた。

●試乗インプレッション

 乗り出して道路に出たとき、軽くアクセルを踏んだのに思った以上の加速で滑らかに速度を上げたのに驚いた。もちろんベタ踏みしてもNAの660ccの限界からそれほどの加速はしないが、日常使用の領域でのアクセルレスポンスは非常によい。もちろん車両重量の軽さもあるのだろう。

 新型ワゴンRにはS-エネチャージの搭載のほかにも改良点がある。それはアイドリングストップの頻度を大幅に増やしたことだ。通常はいったんアイドリングストップしても、ちょっと気を抜いたためにブレーキの踏力が緩んでしまうと、エンジンは再始動する。しかも渋滞中などノロノロ運転では再び止まっても低い速度から停止したのではアイドリングストップしてくれない。しかし、新型ワゴンRはブレーキストロークセンサーを採用することで、まずペダルの踏力が抜けた程度では再始動しないようになっている。また、再始動しても、1km/h以上の速度が出れば再停止でアイドリングストップする。従って停車中に再始動しても、前車との間隔が少し多めにあればアクセルを緩めて動き出したところでブレーキを掛ければ再びアイドリングストップしてくれるほどだ。さらに、減速時のアイドリングストップ速度を下げ、13km/hの以下になるとアイドリングストップする。

とにかくアイドリングストップする機会は大幅に増えたと実感できる。ストップする機会が増えるということはエンジンの再始動の機会も増えるわけだが、ベルト駆動での再始動は前述のように非常に滑らかで静かなのでわずらわしくない。カタログ上とはいえ32.4km/Lという低燃費がうなずける。

 

2014年9月 <飯塚昭三>


最終更新日:2015/02/09