ある夏の夜、フィレンツェのアカデミア美術館。初代SLKのプレゼンテーション。その様子をミケランジェロの有名なダビデ像が見降ろしていた。そこから少し離れたシニョーリア広場にもダビデ像がある。でもあれはレプリカです。新しいところでは、現行Eクラスの日本発表会に赤坂の迎賓館を選んだ。メルセデスは変わった場所が好きである。
今回マイナーチェンジしたSクラス日本導入の発表会場も少し変わっていた。案内状には「六本木のメルセデス・ベンツ・コネクションにお集まりください。そこからバスでご案内します。会場までは約1時間です」となっていた。集合場所にはバスが5台待っていた。でも、どこに行くのか。
バスのナンバーが「千葉」だったから、ぼくは勝手に九十九里あたりだろうと予想した。バスに乗り込むと、外が見えないように紫の分厚いカーテンで窓が覆われ、天井の所々にクリスタルのランプが輝く。まあ昭和の世界ね。見方によってはちょっとエロい。ただ誰もカーテンを開けて外を見ようとはしない。モータージャーナリストって意外に真面目だ。
15分ほど遅れて目的地に着く。スマホの地図で場所を確認すると千葉県の北西部。でも道はない。「?」
その理由はバスから降りて分かった。平成29年に開通予定の東京外かく環状道路の市川市なのだ。半地下式の区間で、まだ完成はしていない。だから地図には正式には載らない。「未来の道路で未来の車を」とメルセデス・ベンツは言う。まあ、ね。少なくとも工事中の高速道路に入れる機会は少ない。
まず記者席の前を最新のメルセデス……Aクラスからゲレンデバーゲン……スマートまでがゆっくり走り、約20台が奥に整列した。このところ急激に車種を増やした同社の凱旋行軍のようだった。
ヘッドランプは片側84個もあるマルチビームLED。照射距離は一挙に650m以上に伸びた(40km/h以上時)。目指したのは明るさだけじゃない。例えば雨の夜、濡れた路面からの反射が眩しくならないような配慮もされている。
フロントやテールのデザインも変更された。ニューグリルの大きな特徴は各ルーバーがツインになったこと。とは言えこれはあくまでもデザイン上のことである。
インテリアデザインは基本的には変更はない。ただ、これまでセンターコンソールにあった前車追従などの入力スイッチがステアリング周りに集められた。携帯電話もコンソールに置くだけで充電できる。
エンジンではハイブリッド(S400h/S300h)が消えたのがビッグニュースだろう。一足早いEV化への布石なのか。 ラインナップは、S400の3ℓV6(367ps=270kW)、S560の4.0ℓ鶩8(469ps=345kW)、AMG S 63 longと同 4MATIC+用の4ℓV8(612ps=450kW)、S 600 long用のV12(530ps=390kW)、さらにはAMG S 65 long用のV12(630ps=463kW)だ。
要するにV6とV8と鶩12ということ。すべてツインターボを装着する。鶩8は、二つのターボチャージャーをシリンダーの外側ではなく内側に配してエンジンのコンパクト化を実現するとともに、低負荷時には4気筒が休止し燃費の改善を図る。AMG S 63の0-100km/h加速は3.5秒。スポーツカーの領域だ。
「アクティレーンチェンジングはEクラスにもあっただろ?」とおっしゃる前に少し耳を傾けていただきたい。Eクラスの場合はウインカーを点滅させると周囲の安全を確認して3秒後に車線を変更したが、その時点で安全でなければ諦めた。しかし今回は10秒間周囲を見張り続け安全だと判断すれば自動で車線を変える。ウインカーの操作力は軽くなったし、車線復帰後もウインカーを戻す必要はない。ただ、これが働くのは80〜180km/h走行時のみだが。
縦列・並列駐車をスマホでできるリモートパーキングはメルセデスとしては初めての装備。ギアもオートでバックに入る。実演時の前後の車との間隔はけっこう狭かった。いったん停めて操作できるのがいい。ただ動きはカクカクしていた。これは電波のせいだという説明だったが。
ほかにも注目すべきSクラスの自動運転サポート技術はいくつもある。しかし、アウディが「2018年にA8にレベル3(原則としてクルマが責任を負う。高速道路の渋滞時を想定。)の自動運転技術を搭載する」と発表した現在、2020年代の初めの予定だというレベル4のメルセデス・モデルが気にかかる。エンジンもそうだが、自動車業界は大きな転換期にある。IT業界からの進出もあることだし、中期的にも目の離せない状況が続くだろう。
税込み価格は1128万円(S 400)から3323万円(AMG S65 long)。納車は一部モデルを除き9月からの予定だ。
報告:神谷龍彦
写真:佐久間健 メルセデス・ベンツ日本
ちょっと見にくいかもしれないが、フロントグリルの各ルーバーがツインになった。AMG系の印象はさすがにスポーティだ。人物は右から上野社長、ドイツから来日したドミニク・フォーフト氏とアンドレアス・ハフナー氏。
クリスタルルックと名付けられたリアランプは状況によっては後続車のために発光量をコントロールする。解錠/施錠時には、LEDランプは内側か外側へ、下側から上側へと流れるように点灯する。これはカミングホーム機能と呼ぶ。
クルマが駐車スペースを感知したら、車外からスマートフォンを操作するだけでパーキングできる(S600とAMG S65には付かない)。ドアのロック&アンロックの確認や駐車位置のチェックもできる。ただし無料で使えるのは3年間。
12.3インチのディスプレイがふたつ並ぶのは先代と同じ。ステアリング周りでできる操作が飛躍的に増えた。
ステアリング位置はS 560 4MATICとS 600、AMG S 63 4MATIC+とAMG S 65が左。S 400は左右。
日本でのメルセデス・ベンツ勢揃い。左列のAクラス、Bクラスから始まり右列手前のスマートまで。