柔軟性のキモは“混流”生産できること
スバルは6月10日、新型BEV(電気自動車)「トレイルシーカー」などを生産する矢島工場(群馬県太田市)を報道陣に公開した。太田市スバル町にある本工場と並ぶ主力完成車工場であるこの工場では、最新の製作方式である「混流」が取り入れられている。果たしてその姿とは?(写真01)
歴史ある変種変量短生産
リソースを余すことなく最大限に活用する方法として挙げられる「変種変量短生産」という考え方がスバルにはある。これは、同じラインで複数の車種を生産するという「混流ライン」と、同じ車種を複数の工場で生産できるようにしておき、需要に応じて工場間での車種の配分を柔軟に変えるという「ブリッジ生産」の2つを組み合わせた方法で、需要の波に対して生産を最適化し、設備も人も遊ばせることなく生産を続けることができるという考え方だ。スバルでは1960年代の「スバル360」から現在に至るまでその生産方式を続けてきており、自社車両の混流だけでなく、国内では日産「サニー」や「パルサー」、米国ではトヨタやいすゞの車両を生産してきた経験があるそうだ
プレゼンテーションに立った渡辺郁夫常務執行役員兼技術本部副本部長は、「いま自動車産業は百年に一度といわれる大きな変化の真っ只中にあり、電動車の進展、需要の不確実性、産業構造の転換など、先を見通すことがかつてないほど難しい時代を迎えています。こうした時代にあって、私たちスバルが競争力の源泉として位置付けているのが、本日のテーマである“柔軟性”です。規模の大きくない私たちだからこそ、変化を恐れるのではなく、むしろ変化に柔軟に対応してそれを強みに変えていく。その挑戦の最前線が本日ご覧いただく矢島工場です」とあいさつ。矢島工場では現在、ICE車(エンジン車)とBEV、スバル車とトヨタ車という構造も成り立ちも異なるクルマをひとつのラインで生産する、スバルがいう“究極の混流”と呼ぶ取り組みが実現できているというのだ。
トレイルシーカー、bZ4X T、フォレスターが流れてくる
実際に矢島工場内の完成検査部門を見ていると、約1分に1台というペースでBEVのスバル「トレイルシーカー」(写真02)とトヨタ「bZ4Xツーリング」(写真03)が流れてくる。仕向地が異なるのでハンドル位置も左右まちまちだ。そして、たまにICEの「フォレスター」も流れてくる(写真04)。パワートレインであるモーターを取り付けるBEVの同じライン上(写真05)で、ガソリンタンクやマフラーというBEVにない部品を取り付けるため、ラインの端っこにそうしたパーツを取り付ける位置取りがなされている。フォレスターの生産はまだテスト段階だというが、夏頃からは本格的に混流ラインに入ってくるそうだ。
今回の実現によって、BEVのライナップ拡充や、トヨタ自動車との協業による効率的な投資、来るべきBEV時代へ備えたモノづくりの知見蓄積の3つができたとするが、一方では異なる車両構造を吸収する混流技術の難しさと、部品数や取引先の増加による輸送の非合理化、という問題が生じたという。例えばサスペンションの取り付け一つにとっても、基準位置の違いや工程順序の違いがあったといい、前者では取り付け基準位置を柔軟に変更できる可動式に変更し、後者ではスバルの従来工順をトヨタ式に追従させることで対応したそうだ。
また矢島工場内にはスバル初のバッテリーASSY生産工場が別棟として併設されている(写真06、この1枚だけはスバル提供)。そこで完成したバッテリーユニットは、「空中回廊」のような通路を通って取り付け場所まで運ばれ、ボディーにマウントされていく。
こうした生産方式は、現在建設中でもともと「EV専用工場」として計画されていたスバル大泉工場にも引き継がれて進化していくという。そこではトリプルハーフ(生産工程、開発手順、部品点数の半減化)の要となる太くて短い製造ライン、変種変量短生産ができる自動化ライン、データとAIでモノを必要な時に必要な場所へ届ける知能化構内物流が構築され、さらに本工場、矢島工場、大泉工場が約4kmという一本の道で連携できるというモノづくりの中核拠点化も完成する。
不確実な需要予測に頼ることなく、変化に応じて日本でも米国でもICEもHEVもBEVもトヨタ車もフレキシブルに生産できる「混流」という生き残り策。これがスバルの「生産における柔軟性の追求」なのだ。(了)
報告:石原彰
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